イベントやワークショップを通じて、チョコレートの奥深さやダンデライオン・チョコレートの魅力を発信しているスポークスパーソン・伴野智映子。彼女は、ダンデライオン・チョコレートの日本上陸のタイミングに入社し、その後の躍進を支えてきた立役者でもあります。
「ダンデライオン・チョコレートで働き始めて、広い世界を知った」と話す伴野に、立ち上げ時のことやこれまでの変遷、今後の展望を聞きました。
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ダンデライオン・チョコレート公式オンラインストア
伴野智映子(ばんの ちえこ)
ダンデライオン・チョコレート・ジャパン チョコレート・エクスペリエンスチーム マネージャー
東京農業大学応用生物科学部栄養科学科を卒業後、洋菓子メーカーやスパイス開発会社、某チョコレートブランドに勤務。2015年、アメリカはポートランドで一人旅をしていたときにBean to Bar チョコレートに出会う。
2016年にダンデライオン・チョコレート・ジャパン入社。チョコレートバーの開発をはじめ、さまざまな業務に携わる。現在は、チョコレート・エクスペリエンスチームのマネージャーとして、ワークショップの講師やブログ記事の執筆などを行う。
ポートランドで出会ったBean to Bar チョコレートに魅せられて
──ダンデライオン・チョコレートの日本上陸と同時に入社されたんですよね。
2016年の1月に入社したので、日本1号店が蔵前にオープンする1ヵ月前ですね。当時はアルバイトスタッフを含めて、20名程でのスタートでしたが、2021年現在は、総勢70名を超えました。
――それまでも食に関わるお仕事をされていたのですか?
はい。大学の栄養科学科を卒業後、洋菓子メーカーを経てスパイスの開発会社へ転職。3年にわたって開発や品質保証を担当した後、大手チョコレートブランドで4年半程働き、ダンデライオン・チョコレートに入社しています。
――ダンデライオン・チョコレートに入社した経緯は?
旅先のポートランドで、カカオ豆の焙煎からすべての工程を自社で一貫して行うBean to Bar チョコレートというものを初めて知ったんです。
当時、私は大手チョコレートブランドで品質保証を担当していて、ベルギーの工場などにも視察に行っていたのですが、そこでは大きなタンクに入ったチョコレートがホースでどんどん型に流し込まれていくのが普通の光景で…。
――なるほど。
チョコレートブランドにいながら、チョコレートの作り方を知らなかったことにも、チョコレートの製造工程の奥深さにも衝撃を受けたんです。
世界中に展開しているブランドだったので、各国に流通できる賞味期限を確保し、輸送にも耐えうる商品設計にしないといけないこともあり、「食の本質ってなんだろう」と考えていて、ポートランドでの出会いはまさにその答えをもらった感じで、余計心を動かされたのかもしれません。
――そして、ダンデライオン・チョコレートとの出会いがあったわけですね。
その旅から帰国後、偶然にも知り合いから「サンフランシスコのBean to Bar チョコレートメーカーが日本で事業展開するらしい」と、ダンデライオン・チョコレートのことを聞いたんです。
お菓子を作るペストリーチームやカフェを担当するチームなどの募集があったのですが、私はチョコレートを作るプロダクションチームに応募して、採用されました。
戸惑いの日々でも心を動かされる発見があり、世界が広がっていった
――ダンデライオン・チョコレートのオープン当時のことを聞かせてください。
日本でオープンする前から、サンフランシスコ本店のスタッフだった方が日本に来て、チョコレートづくりのインストラクターをしてくれました。彼女は英語しか話せないので、私が通訳してみんなに伝えることになったのですが、日本では多くのことが整っていない中でスタートしているので、戸惑うことも多かったですね。
日本とアメリカでは常識が違うことも多く、アメリカから来てくれたインストラクターと日本のスタッフのあいだで板挟みになることもありました。
――伴野さん自身も入社したばかりでありながら、チームをまとめ、通訳をしつつチョコレートづくりも覚えていかなければならないのは、大変だったと思います。
そうですね。でも、チョコレートづくりは工程もシンプルなので覚えやすいですし、何よりその工程の一つひとつがおもしろくて。
「本当にカカオ豆ときび砂糖だけでできるんだ」と驚いたり、チョコレートが一気に液体に変わる瞬間を見て感動したり…。毎日、何かしら心を動かされる発見があって、気づいたらハマっていた感じです。
チョコレートを繰り返し食べるうちに味覚が鍛えられていくのも実感しましたし、カカオ豆の産地ごとの味の違いもだんだん言葉で表現できるようになっていきました。
Bean to Barに関わる人、蔵前で働く人、世界のカカオ豆生産者たち…と、どんどん世界が広がっていく感覚も、それまで働いた会社にはなかったもので、とても新鮮でしたね。
広い層に愛されるBean to Bar チョコレートを作りたい
――日本人で初めてダンデライオン・チョコレートのチョコレートバーを開発したのは伴野さんなんですよね。
アメリカから来てくれたインストラクターの方の見よう見まねで、一枚目を作りました。当時はまだ日本にある機械が粘度の高いチョコレートに対応していなかったので、カカオ含有量が85%の物しかできなかったんです。
ちょっと土っぽい質感がある、つるりとした石のような見た目のカカオ豆が好きだったので、トリニダード・トバゴ産のカカオ豆を選びました。
――初めてチョコレートバーの開発を経験してみて、いかがでしたか?
出来上がったチョコレートを食べたスタッフからは、「お酒好きが作るチョコだね」と(笑)。でも、自分の好みを詰め込んで作ったのはこの一枚だけです。まだ、チョコレートづくりに関してはピュアな時期だったからこそできたチョコレートだといえるかもしれません。
一方で、オープン当初から企画・運営を任されていたワークショップでは、参加されるお子さんが、どうしてもチョコレートの苦みに抵抗がある様子なのが気になっていて。
日本では、まだBean to Bar チョコレートの独特の風味にハードルを感じる人も多いのではないかと感じて、今度はより広い層に愛されるチョコレートを作りたいと思いました。
――そして、次に伴野さんが開発したのが、現在も販売されている「ワンプゥ, ホンジュラス 70%」ですね。
はい。「ワンプゥ, ホンジュラス」というカカオ豆に、一目惚れしたのがきっかけです。見た目が滑らかで美しく、しかも食べてみるとまろやかで酸味がない。これなら、Bean to Bar チョコレートにまだなじみがない人でも食べやすい物が作れるかもしれないと思いました。
今でもワークショップなどでよく使っているチョコレートバーなのですが、初めて食べるお子さんも、「甘くておいしい!」と言って食べてくれるのでうれしいです。
ワンプゥ, ホンジュラス 70%
¥1,296(税込)
ホンジュラスの熱帯雨林モスキーティア地方・プラタノ川流域の生物圏保護区で育つこのカカオ豆は、丸木舟で丸二日かけて川の上流に渡り収穫されます。2018年収穫のこの豆は、まろやかで繊細なフレーバーを引き出すために優しくローストしています。フルボディのワインなら赤白ともに相性抜群です。
今のスタッフだからできる、誰もがおいしいと思えるチョコレートを作りたい
――ワークショップやイベントの企画・運営は、伴野さんがずっとやってこられていますよね。
日本でのオープンから間もない頃は、私よりずっとチョコレートに詳しい方々に向けて話をするような時もありました。チョコレートメーカーの人間として、うまくできない自分が歯がゆくてたくさん悩みましたが、その分勉強する原動力にもなりましたね。
当時は、暇さえあればカカオの産地や発酵の本を読んでいました…お風呂にも持ち込んでいたくらい(笑)。
そうして、チョコレートについての理解が深まるにつれて、だんだんチョコレートラバーの皆さんともお話ができるようになって、とても仲良くなりました。皆さん、今も変わらず足を運んでくれていて、本当にありがたいです。
――こういった取り組みを通じて、Bean to Bar チョコレートを知る方も増えているのではないでしょうか。
そうですね。最初は本国のプログラムや台本をお手本にしながら始めたものの、少しずつ独自の色合いが出てきていると思います。
主に、チョコレートの作り方や歴史をテーマにしてお話ししていますが、最近ではSDGsへの関心の高まりもあって、カカオ豆の産地や労働者の問題など、さまざまな切り口からBean to Barに興味を持ってくれる方が増えている印象です。
――ダンデライオン・チョコレート主催のワークショップ以外でも、チョコレートについてお話しする機会が増えているみたいですね。
企業や学校からお声掛けいただき、元々チョコレートに興味のある方以外にもお話しすることも多くなりました。Bean to Bar チョコレートの認知が広がっているのを実感します。
これからも、「初めて知った!」「おもしろい!」という純粋な驚きや感動をより多くの人に味わってもらえるように、工夫を重ねていきたいですね。
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――蔵前のダンデライオン・チョコレートでは、自社以外のチョコレートメーカーによる商品も販売されているなど、Bean to Bar チョコレート業界全体を盛り上げていこうという気持ちも強い印象があります。
狭い業界なので、横のつながりはとても強いんです。チョコレートメーカー同士で、テンパリングの仕方はどうしているとか、こんな機械を使っているとか、みんなオープンに情報交換をしてお互いを高め合っています。
お互いの工房を見に行くこともあって、「今度はファクトリーツアーをそれぞれのメーカーでやろう」なんて話もあるくらい(笑)。Bean to Barに対する共通の愛情や思いがあって、いっしょに成長していける可能性を感じています。
――これからの広がりが楽しみです。では最後に、今後ダンデライオン・チョコレートで実現したいことはどんなことですか?
今ではスタッフの意識が統一されてきて、「ダンデライオン・チョコレートの目指すもの」をいっしょに追いかけられるようになりました。
カカオ豆についてもっと知りたい、学びたいという熱意あるスタッフも増えてきたので、そういう気持ちをうまくすくい上げて、チョコレートで表現できるようにしたいと思っています。
今いるメンバーだからこそ作れる、全員がおいしいと思えるチョコレートを生み出せたら幸せですね。