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サステナブルなカカオビジネス:ソルサル・カカオの取り組み

サステナブルなカカオビジネス:ソルサル・カカオの取り組み

こんにちは。ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野智映子です。普段はオンラインワークショップの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。最近、さまざまな場所で「サステナブル」という言葉を耳にします。持続可能な、という意味のこの言葉。みなさんの暮らしの中にも、レジ袋やマイボトルの持参などを通して、少しずつ浸透してきているのではないでしょうか?この未来につながる一人ひとりのサステナブルな行動が、持続可能な社会づくりにつながるからこそ、それぞれの人や組織、企業が、どのように向き合っていくかに注目が集まっています。そんな中、今回は、ダンデライオン・チョコレートが、最も多く使用しているカカオ豆の産地、ドミニカ共和国のソルサル・カカオのサステナブルな取り組みを、皆さんにご紹介しようと思います。なぜ、数ある中から、私たちがソルサル・カカオのカカオ豆を選び、多く使用しているのか。それはカカオ豆のフレーバーはもちろん、彼らの理念にも、共感する部分が大きいからなのです。 自然保護とカカオ豆の栽培を両立する、ソルサル・カカオ ソルサル・カカオがあるドミニカ共和国自体は、世界で10番目のカカオ生産国。カカオ豆の生産は、国の一大産業の一つになっています。 ソルサル・カカオの創設者の一人、チャールズ・キルヒナー(通称チャック)が、初めてドミニカ共和国でカカオ豆に触れたのは、彼がまだ学生のころ。ピース・コープ(日本の青年海外協力隊)に参加した彼は、この地で、カカオ豆の発酵箱の製造や、オーガニック認証取得のための生産体制を整える経験をしました。当時、森林経済学を学んでいたチャックは、この活動を経て、森林保全とカカオを組み合わせることで持続可能な経済を創ることが出来るのではないか、と考えるようになったそうです。 そしてアメリカに帰国後、博士課程を終えたチャックは、カカオの栽培地域と生物多様性において注目されているエリアが相関していることに気づきます。 「ピース・コープでの経験と博士課程で学んだ森林経済学の知識を活かし、カカオを通じてこの地域の経済活動を創ることができないだろうか」チャックは、ドミニカ共和国に戻り、仲間と共にビジネスを起こすことを決意しました。 ドミニカ共和国に戻ったチャックは仲間達と一緒にソルサル・カカオを創設後、まずドゥアルテ州の山中に、まだ開発されていない412ヘクタールの土地を購入。ドミニカでは初となる個人資本による野鳥の保全区域を設定しました。そして、その面積の70%をツグミの保護区(レゼルバ・ソルサル)として「永久に完全な自然状態」で維持し、残りを高品質カカオの栽培用として使用することを決めたのです。ちなみに、「ソルサル・カカオ」の「ソルサル」は、スペイン語で渡り鳥の「ツグミ」を意味します。 この土地はビックネルツグミという渡り鳥がバーモント州の雪を避け越冬するために訪れる貴重な場所。チャック達は、ここで「ツグミの保護」と「カカオ豆の生産」という挑戦をスタートしました。 出典:あきた森づくり活動サポートセンター 力強い自然と、豊かな森林を思わせるカカオ豆の誕生 こうしてツグミの保護と隣り合わせで栽培し、加工したカカオ豆「ソルサル・エステート」が生まれました。また、レゼルバ・ソルサル保護区近隣の農家からもカカオ豆を購入し、こちらは「ソルサル・コミュニタリオ」と命名。彼らソルサル・カカオでは、現在この2種類のカカオ豆を販売しています。彼らの農園があるレゼルバ・ソルサルは、ドミニカ共和国のカカオ生産の中心地であるサンフランシスコ・デ・マコリスから車で2時間ほどのところにあります。保全区域のため、緑豊かな山あいにカカオが生い茂り、ツグミのさえずりも聞こえる。思わず深呼吸したくなる、マイナスイオンたっぷりの環境です。この自然豊かな環境で育つカカオは、力強いカカオ感とウッディーな香り、そしてチェリーのような酸味が共存する、森林のイメージそのもの。作り手によって多種多様に七変化する、まさに自然保全区域を彷彿とさせる味わいになりました。 さらに続く、森林再生という彼らの挑戦 また、彼らはドミニカ共和国の森林再生活動にも積極的に関わり、プラン・ヴィボというカーボン・オフセットプロジェクトにも参画しています。これにより、私たちチョコレート・メーカーがカカオ豆を購入すると、1トンあたり$200のカーボン・クレジットをソルサル・カカオが購入したことになります。そしてこの資金が、原生種の木を植える資金に当てられる仕組みとなっているのです。カカオ豆を購入するたびに、ドミニカ共和国に原生林が増える。私たちチョコレートメーカーが、彼らの豆を使ってチョコレートやお菓子、ドリンクを作り、お客様に美味しく召し上がっていただく。そのことが間接的に、ドミニカ共和国の野鳥保護や森林再生活動への貢献に繋がっている。遠く離れたドミニカ共和国と日本が、カカオを通じて笑顔になれる好循環が、ここに生まれています。 最後に ソルサル・カカオはカカオの生産を通して、野鳥保護と森林保全を行う、サステナブルなビジネスモデルを見事に作り上げました。私たちはソルサル・カカオのこのような取り組みや考え方に共感し、パートナーとしてこれを応援し、今後もより良い関係を築いていきたいと考えています。今年はこの状況下で開催中止となりましたが、ソルサル・カカオでは毎年”Chocolate Maker Week”として世界中のチョコレートメーカーが参加するカカオ農園ツアーを開催しています。また来年、彼らの取り組みを現地で体感出来るのを楽しみにしています。 また、ダンデライオン・チョコレートでは、チョコレートバーをはじめ、ハウスホットチョコレート、チョコレートブラウニーなど、ソルサル・カカオの味わいを感じることのできる商品をたくさん用意しております。ぜひ、皆さんもその自然豊かなフレーバーを感じにいらしてください。最後になりましたが、12月もチョコレートやカカオにまつわるワークショップを開催しております。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。詳細・空き状況確認、お申し込みはPeatixから 関連商品 ソルサル・コミュニタリオ, ドミニカ共和国 70%¥1,296(税込)自然豊かな野鳥の保護区域、レゼルバ・ソルサルの周辺で作られたカカオ豆です。トロピカルフルーツのような明るいフレーバーの広がりが印象的で、グリーンバナナ、アーモンド、クリーミーなカスタードと味わいの変化をお楽しみいただけます。 カヌレ¥2,808(税込)香ばしくしっかりとした味わいの中に、すっきりとした酸味も持ち合わせるドミニカ共和国産カカオ豆のチョコレートを使用しています。香りづけのラム酒もチョコレートに合わせて、ドミニカ共和国産の「ロン バルセロ グラン・アニェホ」を選びました。アンバー(宝石の琥珀に似た色)に輝き、透き通ったラム酒は、ふくよかな甘みを持ちつつもすっきりとした飲み口が特徴です。

サステナブルなカカオビジネス:ソルサル・カカオの取り組み

こんにちは。ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野智映子です。普段はオンラインワークショップの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。最近、さまざまな場所で「サステナブル」という言葉を耳にします。持続可能な、という意味のこの言葉。みなさんの暮らしの中にも、レジ袋やマイボトルの持参などを通して、少しずつ浸透してきているのではないでしょうか?この未来につながる一人ひとりのサステナブルな行動が、持続可能な社会づくりにつながるからこそ、それぞれの人や組織、企業が、どのように向き合っていくかに注目が集まっています。そんな中、今回は、ダンデライオン・チョコレートが、最も多く使用しているカカオ豆の産地、ドミニカ共和国のソルサル・カカオのサステナブルな取り組みを、皆さんにご紹介しようと思います。なぜ、数ある中から、私たちがソルサル・カカオのカカオ豆を選び、多く使用しているのか。それはカカオ豆のフレーバーはもちろん、彼らの理念にも、共感する部分が大きいからなのです。 自然保護とカカオ豆の栽培を両立する、ソルサル・カカオ ソルサル・カカオがあるドミニカ共和国自体は、世界で10番目のカカオ生産国。カカオ豆の生産は、国の一大産業の一つになっています。 ソルサル・カカオの創設者の一人、チャールズ・キルヒナー(通称チャック)が、初めてドミニカ共和国でカカオ豆に触れたのは、彼がまだ学生のころ。ピース・コープ(日本の青年海外協力隊)に参加した彼は、この地で、カカオ豆の発酵箱の製造や、オーガニック認証取得のための生産体制を整える経験をしました。当時、森林経済学を学んでいたチャックは、この活動を経て、森林保全とカカオを組み合わせることで持続可能な経済を創ることが出来るのではないか、と考えるようになったそうです。 そしてアメリカに帰国後、博士課程を終えたチャックは、カカオの栽培地域と生物多様性において注目されているエリアが相関していることに気づきます。 「ピース・コープでの経験と博士課程で学んだ森林経済学の知識を活かし、カカオを通じてこの地域の経済活動を創ることができないだろうか」チャックは、ドミニカ共和国に戻り、仲間と共にビジネスを起こすことを決意しました。 ドミニカ共和国に戻ったチャックは仲間達と一緒にソルサル・カカオを創設後、まずドゥアルテ州の山中に、まだ開発されていない412ヘクタールの土地を購入。ドミニカでは初となる個人資本による野鳥の保全区域を設定しました。そして、その面積の70%をツグミの保護区(レゼルバ・ソルサル)として「永久に完全な自然状態」で維持し、残りを高品質カカオの栽培用として使用することを決めたのです。ちなみに、「ソルサル・カカオ」の「ソルサル」は、スペイン語で渡り鳥の「ツグミ」を意味します。 この土地はビックネルツグミという渡り鳥がバーモント州の雪を避け越冬するために訪れる貴重な場所。チャック達は、ここで「ツグミの保護」と「カカオ豆の生産」という挑戦をスタートしました。 出典:あきた森づくり活動サポートセンター 力強い自然と、豊かな森林を思わせるカカオ豆の誕生 こうしてツグミの保護と隣り合わせで栽培し、加工したカカオ豆「ソルサル・エステート」が生まれました。また、レゼルバ・ソルサル保護区近隣の農家からもカカオ豆を購入し、こちらは「ソルサル・コミュニタリオ」と命名。彼らソルサル・カカオでは、現在この2種類のカカオ豆を販売しています。彼らの農園があるレゼルバ・ソルサルは、ドミニカ共和国のカカオ生産の中心地であるサンフランシスコ・デ・マコリスから車で2時間ほどのところにあります。保全区域のため、緑豊かな山あいにカカオが生い茂り、ツグミのさえずりも聞こえる。思わず深呼吸したくなる、マイナスイオンたっぷりの環境です。この自然豊かな環境で育つカカオは、力強いカカオ感とウッディーな香り、そしてチェリーのような酸味が共存する、森林のイメージそのもの。作り手によって多種多様に七変化する、まさに自然保全区域を彷彿とさせる味わいになりました。 さらに続く、森林再生という彼らの挑戦 また、彼らはドミニカ共和国の森林再生活動にも積極的に関わり、プラン・ヴィボというカーボン・オフセットプロジェクトにも参画しています。これにより、私たちチョコレート・メーカーがカカオ豆を購入すると、1トンあたり$200のカーボン・クレジットをソルサル・カカオが購入したことになります。そしてこの資金が、原生種の木を植える資金に当てられる仕組みとなっているのです。カカオ豆を購入するたびに、ドミニカ共和国に原生林が増える。私たちチョコレートメーカーが、彼らの豆を使ってチョコレートやお菓子、ドリンクを作り、お客様に美味しく召し上がっていただく。そのことが間接的に、ドミニカ共和国の野鳥保護や森林再生活動への貢献に繋がっている。遠く離れたドミニカ共和国と日本が、カカオを通じて笑顔になれる好循環が、ここに生まれています。 最後に ソルサル・カカオはカカオの生産を通して、野鳥保護と森林保全を行う、サステナブルなビジネスモデルを見事に作り上げました。私たちはソルサル・カカオのこのような取り組みや考え方に共感し、パートナーとしてこれを応援し、今後もより良い関係を築いていきたいと考えています。今年はこの状況下で開催中止となりましたが、ソルサル・カカオでは毎年”Chocolate Maker Week”として世界中のチョコレートメーカーが参加するカカオ農園ツアーを開催しています。また来年、彼らの取り組みを現地で体感出来るのを楽しみにしています。 また、ダンデライオン・チョコレートでは、チョコレートバーをはじめ、ハウスホットチョコレート、チョコレートブラウニーなど、ソルサル・カカオの味わいを感じることのできる商品をたくさん用意しております。ぜひ、皆さんもその自然豊かなフレーバーを感じにいらしてください。最後になりましたが、12月もチョコレートやカカオにまつわるワークショップを開催しております。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。詳細・空き状況確認、お申し込みはPeatixから 関連商品 ソルサル・コミュニタリオ, ドミニカ共和国 70%¥1,296(税込)自然豊かな野鳥の保護区域、レゼルバ・ソルサルの周辺で作られたカカオ豆です。トロピカルフルーツのような明るいフレーバーの広がりが印象的で、グリーンバナナ、アーモンド、クリーミーなカスタードと味わいの変化をお楽しみいただけます。 カヌレ¥2,808(税込)香ばしくしっかりとした味わいの中に、すっきりとした酸味も持ち合わせるドミニカ共和国産カカオ豆のチョコレートを使用しています。香りづけのラム酒もチョコレートに合わせて、ドミニカ共和国産の「ロン バルセロ グラン・アニェホ」を選びました。アンバー(宝石の琥珀に似た色)に輝き、透き通ったラム酒は、ふくよかな甘みを持ちつつもすっきりとした飲み口が特徴です。

チョコレートの歴史を知ろう - 海を渡って進化するチョコレート

チョコレートの歴史を知ろう - 海を渡って進化するチョコレート

チョコレートは、原材料のカカオが採れる「生産地」から、実際に製造して喫食する「消費国」が遠く離れているという点で、とてもユニークな食べ物です。チョコレートの歴史を辿ると、なぜ生産地と消費国が異なるのか、謎が解けてきます。カカオの発祥から現在のクラフトチョコレートの成り立ちまで、海を渡って進化するチョコレートの歴史を見ていきましょう。 目次1. カカオの発祥(紀元前3300年頃・5300年前)2. マヤ・アステカ文明(紀元前2000年頃)3. ヨーロッパとカカオの出会い(1502年〜)4. ヨーロッパでの広がり(1606年頃)5. チョコレートの工業化(1730年〜)6. アメリカでの広がり7. 日本での広がり8. クラフトチョコレートへの回帰9. まとめ 1. カカオの発祥(紀元前3300年頃・5300年前) これまでの考古学的証拠から、カカオは4000年前から利用されており、主に中南米のメソアメリカ(メキシコ、ホンジュラス、ベリーズ、グアテマラ)で最初に栽培されたという説が定着していました。しかし、遺伝学的証拠からは、カカオとその近縁種は南アメリカ大陸の赤道付近で最も多様化していることが示されており、実はこちらがカカオ発祥の地なのではないか、という説もありました。そして2018年末、世紀の大発見が発表されました。南米・エクアドルにおいて、マヨ・チンチペ文化で知られ、最古の遺跡となるサンタ・アナ・ラ・フロリダ(Santa Ana-La Florida)遺跡で、カカオを栽培していたことを裏付ける土器が発掘されたのです。 出典:science alert この土器片の内面より、カカオ特有のデンプン粒と塩基配列を持つDNA、テオブロミンの残留物の3点が発見されました。土器がボトルのような形状をしていることから、この頃からカカオは何らかの形で喫食されていたことが明らかになりました。この事実により、カカオ発祥の地は5300年前のエクアドルに改められ、そこから世界に広がって行ったという歴史に書き換えられたのです。 2. マヤ・アステカ文明 作物としてカカオが栽培され始めたのは紀元前2000年頃のメソアメリカと言われています。マヤ文明の母体となったオルメカ文明時代の首都サン・ロレンツォ(San Lorenzo)(現メキシコ)では、テオブロミンの残留物が付着した土器が発見されています。 出典:PNAS, Cacao use and the San Lorenzo...

チョコレートの歴史を知ろう - 海を渡って進化するチョコレート

チョコレートは、原材料のカカオが採れる「生産地」から、実際に製造して喫食する「消費国」が遠く離れているという点で、とてもユニークな食べ物です。チョコレートの歴史を辿ると、なぜ生産地と消費国が異なるのか、謎が解けてきます。カカオの発祥から現在のクラフトチョコレートの成り立ちまで、海を渡って進化するチョコレートの歴史を見ていきましょう。 目次1. カカオの発祥(紀元前3300年頃・5300年前)2. マヤ・アステカ文明(紀元前2000年頃)3. ヨーロッパとカカオの出会い(1502年〜)4. ヨーロッパでの広がり(1606年頃)5. チョコレートの工業化(1730年〜)6. アメリカでの広がり7. 日本での広がり8. クラフトチョコレートへの回帰9. まとめ 1. カカオの発祥(紀元前3300年頃・5300年前) これまでの考古学的証拠から、カカオは4000年前から利用されており、主に中南米のメソアメリカ(メキシコ、ホンジュラス、ベリーズ、グアテマラ)で最初に栽培されたという説が定着していました。しかし、遺伝学的証拠からは、カカオとその近縁種は南アメリカ大陸の赤道付近で最も多様化していることが示されており、実はこちらがカカオ発祥の地なのではないか、という説もありました。そして2018年末、世紀の大発見が発表されました。南米・エクアドルにおいて、マヨ・チンチペ文化で知られ、最古の遺跡となるサンタ・アナ・ラ・フロリダ(Santa Ana-La Florida)遺跡で、カカオを栽培していたことを裏付ける土器が発掘されたのです。 出典:science alert この土器片の内面より、カカオ特有のデンプン粒と塩基配列を持つDNA、テオブロミンの残留物の3点が発見されました。土器がボトルのような形状をしていることから、この頃からカカオは何らかの形で喫食されていたことが明らかになりました。この事実により、カカオ発祥の地は5300年前のエクアドルに改められ、そこから世界に広がって行ったという歴史に書き換えられたのです。 2. マヤ・アステカ文明 作物としてカカオが栽培され始めたのは紀元前2000年頃のメソアメリカと言われています。マヤ文明の母体となったオルメカ文明時代の首都サン・ロレンツォ(San Lorenzo)(現メキシコ)では、テオブロミンの残留物が付着した土器が発見されています。 出典:PNAS, Cacao use and the San Lorenzo...

フェアトレードとダイレクトトレードの違いとは?

フェアトレードとダイレクトトレードの違いとは?

こんにちは。ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野智映子です。普段はオンラインワークショップの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。今回は、オンラインワークショップでもご質問いただくことが多い、フェアトレードを取り上げてみます。「フェアトレード( = Fair Trade)」は、直訳すると「公平・公正な貿易」。立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す貿易の仕組みで、この考えに基づく認証制度はチョコレートの原材料であるカカオに限らず、コーヒーや紅茶、スパイス等、広く取り入れられています。しかし、ダンデライオン・チョコレートで使用する豆はフェアトレードではなく、「ダイレクトトレード」と定義しています。では、「フェアトレード」と「ダイレクトトレード」はどう異なるのでしょうか?ダンデライオン・チョコレートの取り組みを交えて、お伝えしようと思います。 1. フェアトレードとは? これまで発展途上国で作られた作物や製品は、不公平な市場価格に左右され、国際協力団体の援助があっても経済的持続性がなく、生産者は低賃金労働や児童労働、また地球環境に負荷を与える生産方法を取らざるを得ない状況でした。そこで、この状況を打破するために生まれたのが、フェアトレードという概念です。生産者や労働者の適切な労働環境や安定した生活をサポートできる公正な取引や対価を保証し、地球環境にも配慮したサステナブルな貿易の必要性を訴えました。フェアトレードの歴史は約70年以上も前に遡り、1946年にアメリカのNGOに勤める女性が、プエルトリコの女性たちが作った刺繍製品を本国で販売したのが最初の試みと言われています。1950年代には、イギリスのオックスファムが手工芸品の販売を始め、1958年にはアメリカにフェアトレードショップの第1号店が開店しました。1960年代から欧米で動きが加速し、1970年代になると手工芸品だけではなく、コーヒー豆や紅茶、チョコレート、バナナといった食料品にも広がりました。その後、世界各国に様々なフェアトレード・ラベル団体が発足し、ラベルや基準の統一が必要となったため、1997年に「国際フェアトレードラベル機構(FLO、Fairtrade Labelling Organizations International)」という、フェアトレードラベル運動組織を一つにまとめた国際ネットワーク組織が設立されます。FLOにより設けられた経済的・社会的・環境的基準をクリアした製品に対して、フェアトレード認証ラベルが与えられるようになりました。 その他にも、フェアトレードを行う団体に対して認証を行う世界フェアトレード機関(WFTO、World Fair Trade Organization)や、各企業や団体が独自で設定している認証制度があります。 フェアトレードには、各団体が設ける基準をクリアすることにより与えられる認証ラベルをもとに、私たちが安心してその商品を購入することが出来るというひとつのメリットがあります。 2. ダイレクトトレードとは? 一方、ダンデライオン・チョコレートで行っている「ダイレクトトレード」は、フェアトレードとは取り組み方が少し異なります。まず、私たちはカカオ豆の買い付け担当であるグレッグ・ダレサンドレを筆頭に、使用する産地に必ず訪れ、自らの目で生産地、生産者、生活環境、私たちがカカオ豆を手にするまでの商流を把握した上で、価格を交渉し、購入しています。 農園で生産者らと談義するグレッグ(右端) 生産国では最終製品であるチョコレートを口にすることが少なく、カカオは生産者にとって収穫後どのように加工、消費されていくかが見えにくい作物です。産地に赴くことで、私たちは生産者の顔を知り、生産者は私たちがどのようなチョコレートを作っているかを知る。お互いの取り組みや考え方を、直接会って理解し合うことを、私たちは大切にしています。生産者とコンタクトを取り始めてから現地を訪問し、実際に購入するまで、約3年ほどかかります。生産者との関係性を築き、適正な価格を話し合い、時には技術指導者を紹介して品質向上のお手伝いをし、ようやく手にするカカオ豆には自然と思い入れが強くなり、「このカカオ豆で美味しいチョコレートを作るんだ」と気合いが入ります。フェアトレードでは認証団体側が設けた基準をクリアする必要があります。また、フェアトレード認証を受け、登録を維持するには一定の費用がかかりますが、ダイレクトトレードでは認証のための時間や費用が生産者側にかかることはありません。私たちには認証ラベルはありませんが、生産者と私たちの直接の関係性や信頼こそが基準となっています。私たちは生産者の方々の思いを少しでも届けようと、産地を紹介するソーシングレポートを発行し、取引に関する情報を開示しています。それぞれの産地の個性豊かなダンデライオンのチョコレート。産地の情景や生産者の顔を思い浮かべながら、ぜひ召し上がってみてください。 3. まとめ フェアトレードとダイレクトトレード、どちらが良いということはありません。「身体に入れるものを自分自身できちんと把握する」という食のアプローチの点においては、どちらも共通する部分があると思います。ご自身が購入する食品選びの基準として、参考になると嬉しいです。最後に、今回のお話はオンラインワークショップ Step 5 産地を知るとより美味しい「カカオの生産地とチョコレート」でも、生産者の取り組みとして詳しく触れています。その他にもチョコレートやカカオにまつわるワークショップを開催しておりますので、ぜひご参加ください。詳細・空き状況確認、お申し込みはPeatixから 関連商品 チョコレートバー各種¥1,296(税込)シングルオリジンカカオ豆とオーガニックのケインシュガー(きび砂糖)の2種類だけで作られたチョコレートバー。個性豊かなシングルオリジンのカカオ豆は、私たちが開発した独自の焙煎を行うことで、それぞれの豆が持っている独特のフレーバーやニュアンスを引き出しています。

フェアトレードとダイレクトトレードの違いとは?

こんにちは。ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野智映子です。普段はオンラインワークショップの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。今回は、オンラインワークショップでもご質問いただくことが多い、フェアトレードを取り上げてみます。「フェアトレード( = Fair Trade)」は、直訳すると「公平・公正な貿易」。立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す貿易の仕組みで、この考えに基づく認証制度はチョコレートの原材料であるカカオに限らず、コーヒーや紅茶、スパイス等、広く取り入れられています。しかし、ダンデライオン・チョコレートで使用する豆はフェアトレードではなく、「ダイレクトトレード」と定義しています。では、「フェアトレード」と「ダイレクトトレード」はどう異なるのでしょうか?ダンデライオン・チョコレートの取り組みを交えて、お伝えしようと思います。 1. フェアトレードとは? これまで発展途上国で作られた作物や製品は、不公平な市場価格に左右され、国際協力団体の援助があっても経済的持続性がなく、生産者は低賃金労働や児童労働、また地球環境に負荷を与える生産方法を取らざるを得ない状況でした。そこで、この状況を打破するために生まれたのが、フェアトレードという概念です。生産者や労働者の適切な労働環境や安定した生活をサポートできる公正な取引や対価を保証し、地球環境にも配慮したサステナブルな貿易の必要性を訴えました。フェアトレードの歴史は約70年以上も前に遡り、1946年にアメリカのNGOに勤める女性が、プエルトリコの女性たちが作った刺繍製品を本国で販売したのが最初の試みと言われています。1950年代には、イギリスのオックスファムが手工芸品の販売を始め、1958年にはアメリカにフェアトレードショップの第1号店が開店しました。1960年代から欧米で動きが加速し、1970年代になると手工芸品だけではなく、コーヒー豆や紅茶、チョコレート、バナナといった食料品にも広がりました。その後、世界各国に様々なフェアトレード・ラベル団体が発足し、ラベルや基準の統一が必要となったため、1997年に「国際フェアトレードラベル機構(FLO、Fairtrade Labelling Organizations International)」という、フェアトレードラベル運動組織を一つにまとめた国際ネットワーク組織が設立されます。FLOにより設けられた経済的・社会的・環境的基準をクリアした製品に対して、フェアトレード認証ラベルが与えられるようになりました。 その他にも、フェアトレードを行う団体に対して認証を行う世界フェアトレード機関(WFTO、World Fair Trade Organization)や、各企業や団体が独自で設定している認証制度があります。 フェアトレードには、各団体が設ける基準をクリアすることにより与えられる認証ラベルをもとに、私たちが安心してその商品を購入することが出来るというひとつのメリットがあります。 2. ダイレクトトレードとは? 一方、ダンデライオン・チョコレートで行っている「ダイレクトトレード」は、フェアトレードとは取り組み方が少し異なります。まず、私たちはカカオ豆の買い付け担当であるグレッグ・ダレサンドレを筆頭に、使用する産地に必ず訪れ、自らの目で生産地、生産者、生活環境、私たちがカカオ豆を手にするまでの商流を把握した上で、価格を交渉し、購入しています。 農園で生産者らと談義するグレッグ(右端) 生産国では最終製品であるチョコレートを口にすることが少なく、カカオは生産者にとって収穫後どのように加工、消費されていくかが見えにくい作物です。産地に赴くことで、私たちは生産者の顔を知り、生産者は私たちがどのようなチョコレートを作っているかを知る。お互いの取り組みや考え方を、直接会って理解し合うことを、私たちは大切にしています。生産者とコンタクトを取り始めてから現地を訪問し、実際に購入するまで、約3年ほどかかります。生産者との関係性を築き、適正な価格を話し合い、時には技術指導者を紹介して品質向上のお手伝いをし、ようやく手にするカカオ豆には自然と思い入れが強くなり、「このカカオ豆で美味しいチョコレートを作るんだ」と気合いが入ります。フェアトレードでは認証団体側が設けた基準をクリアする必要があります。また、フェアトレード認証を受け、登録を維持するには一定の費用がかかりますが、ダイレクトトレードでは認証のための時間や費用が生産者側にかかることはありません。私たちには認証ラベルはありませんが、生産者と私たちの直接の関係性や信頼こそが基準となっています。私たちは生産者の方々の思いを少しでも届けようと、産地を紹介するソーシングレポートを発行し、取引に関する情報を開示しています。それぞれの産地の個性豊かなダンデライオンのチョコレート。産地の情景や生産者の顔を思い浮かべながら、ぜひ召し上がってみてください。 3. まとめ フェアトレードとダイレクトトレード、どちらが良いということはありません。「身体に入れるものを自分自身できちんと把握する」という食のアプローチの点においては、どちらも共通する部分があると思います。ご自身が購入する食品選びの基準として、参考になると嬉しいです。最後に、今回のお話はオンラインワークショップ Step 5 産地を知るとより美味しい「カカオの生産地とチョコレート」でも、生産者の取り組みとして詳しく触れています。その他にもチョコレートやカカオにまつわるワークショップを開催しておりますので、ぜひご参加ください。詳細・空き状況確認、お申し込みはPeatixから 関連商品 チョコレートバー各種¥1,296(税込)シングルオリジンカカオ豆とオーガニックのケインシュガー(きび砂糖)の2種類だけで作られたチョコレートバー。個性豊かなシングルオリジンのカカオ豆は、私たちが開発した独自の焙煎を行うことで、それぞれの豆が持っている独特のフレーバーやニュアンスを引き出しています。

カカオの品種とチョコレートの ”ちょっと複雑な関係” とは?

カカオの品種とチョコレートの ”ちょっと複雑な関係” とは?

こんにちは。ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野智映子です。普段はオンラインクラスの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。今回は、オンラインクラスでも詳しく触れている、カカオの品種と、品種がチョコレートのフレーバーに与える影響についてお話しします。どんな食材でもそうですが、「品種」はその食材の価値を測る一つの指標になります。その分野に精通していなくても、例えば「日本3大ブランド米といえば、新潟のコシヒカリ、宮城のササニシキ、秋田のあきたこまち」、というような知識はあるものですよね。カカオも同様に、様々な品種があり、価値を測る一つの指標として示されています。 1. カカオの品種を知る 現在、カカオの主な品種はこちらの3系統に分類されています。 「クリオロ種」はフレーバーが豊かですが、病害虫に弱いため栽培しにくく、生産量は全体の約3-5%という希少種。世界でも生産量の極めて少ない「ホワイトカカオ」はこのクリオロの一種なのですが、とても貴重で幻のカカオとも評されています。対して「フォラステロ種」は、フレーバーは可もなく不可もなくというところですが、病害虫に強いため栽培しやすく、生産量は全体の約80%。主に大量生産のチョコレートに使用されると言われています。「トリニタリオ種」は上記2種の”いいとこ取り”をして掛け合わせたハイブリッド品種で、生産量は全体の約15~20%。トリニダード・トバゴで生まれたことからこの名前が付きました。上記のとおり、「クリオロ種=希少で良いカカオ」「フォラステロ種=安価なマスマーケット向け品種」という”レッテル”に近いものを貼られていますが、これはICCO (International Cocoa Organization)が「(品質の)良いカカオは、クリオロまたはトリニタリオの木からできたカカオである」という定義付けをしたことも影響しています。しかしその一方で、現在は遺伝学研究が進み、「実はカカオは10種に細分化出来るのでは・・・」という説も出てきました。これは2008年にUSDA(米国農務省)のJuan Carlos MotamayorとMars(米国の大手食品企業)の研究員によるグループが発表した考え。それによると、1,241種類の異なる地理的起源のサンプルを採取した結果、カカオは10種類のグループに分けられるというのです。(参考:https://www.nature.com/articles/s42003-018-0168-6)このように、カカオの品種については、まだまだこれから新しい研究結果が出てくる可能性が十分にあります。となると、まだ品種が完全に特定されない時点で、品種による価値は評価出来ないのでは? とも言えそうですね。 2. 品種はチョコレートのフレーバーにどのくらい影響するのか 私は、品種は最終的な商品(=チョコレート)に、そこまで大きなインパクトを与えるとは考えていません。もちろん全くゼロではありませんが、私がこのような意見を持つのには、大きく3つの理由があります。まず1つ目の理由は、「カカオの受粉方法」にあります。 カカオは、主に他家受粉(1つの植物の花粉が、異なる植物と受粉すること)をする植物です。多くの木が他の植物との受粉をし、ハーフやクオーターになっていきます。つまり、クリオロ種を植えたつもりでも、受粉を繰り返すことで「純粋なクリオロ」ではなくなっていくのです。もちろん単一品種を囲って生育することは可能です。しかし、そもそも他家受粉は遺伝的多様性、その植物が長く生き延びるための方法の一つなので、単一品種のみで生育するカカオは育てるのが難しいとされています(そのため希少とも言われます)。 2つ目の理由は「カカオの種の特性」にあります。チョコレートはカカオの種を使って作るのですが、実は、同じ品種のカカオの実から、全て同じ種が出てくるとは限らないのです。 通常、カカオを割ると中に20〜30個程の種が入っていますが(種の数はカカオの大きさにより異なります)、同じ親から生まれた兄弟でも顔や髪の色が異なるのと同様に、種たちも様々な形状をしています。例えば「クリオロ」と言われる品種の中でも種を割ってみると黄みがかったもの、うっすら紫のもの、真っ白なもの(これがホワイトカカオ)があります。私は幼少期シンガポールで育ったのですが、シンガポールは多民族国家で、中国人とマレーシア人のハーフ、中華系シンガポール人、マレー系中国人等ごちゃ混ぜで、純粋な「シンガポール人」にはあまり会いませんでした。それでも”I’m from Singapore”といえばシンガポール出身となるわけで、私はカカオもそんな捉え方でいいのかなと思います。「カカオの世界は多民族国家なんだ」と考えると、少し想像しやすくなりますよね。 さて最後に、私が「品種は最終的な商品であるチョコレートにそこまで大きなインパクトを与えるとは考えていない」最大の理由は、カカオは収穫後に「発酵・乾燥」するからです。 <発酵> <乾燥> カカオは収穫後、実と種を取り除いて1週間程度発酵箱に入れて発酵したのち、乾燥させて出荷されます。生産地によって様々ではありますが、多くの場合、カカオの栽培・収穫まではカカオ農家が、その後の発酵・乾燥・出荷は別の場所(多くは社会団体が作った発酵乾燥施設)で行います。この発酵乾燥施設では、周辺のいくつかの農園からカカオが集められ、同じ発酵箱に入ることも。つまり、この時点で品種がミックスする可能性があるのです。発酵には様々な手法があり、その時の気候や使用する機材によってもフレーバーが変わります。そしてこれが、最終的な「カカオの味わい」を決める一番のポイントになります。つまり、元々のカカオの品種によるポテンシャルに違いはあれど、良いとされる品種でも発酵を失敗してしまったら元も子もなく、一方で、さほど良い品種でなくても発酵が段違いに素晴らしければ、とても美味しいカカオ豆になるかもしれない、というわけなのです。 3. まとめ チョコレートメーカーならではの視点にはなりますが、フォラステロ種(安価なマスマーケット品種と言われる種)でも発酵工程によっては美味しいチョコレートを作ることができます。しかし、発酵がうまく行っていないカカオからは、それがどんなに良い品種であっても、美味しいチョコレートを作ることは、非常に困難です。それくらい、カカオの品質において発酵工程は重要。もちろん品種に特化するストーリーや意義はあると思います。しかしながら、そこから作られる「チョコレートの美味しさ」は、一概に「品種あってのこと」ではないのです。ちなみにダンデライオン・チョコレートでは、上記の理由から、品種を打ち出してはいませんが、農園を訪問し、農家や発酵施設の方々と直接お話しすることで、使用する豆を選んでいます。品種は一つの価値観である。カカオにおいては、そう捉えていただけると良いのかもしれません。 最後に、カカオやチョコレートについてもっと詳しく知りたいとご希望の方に、幅広くそして楽しく学んでいただけるよう、ダンデライオン・チョコレートでは、5つのオンラインクラスをご用意しております。Step1〜Step5まで、一つ一つ段階を踏んでいただくことで、さまざまな角度からチョコレートの世界を体験しつつ学んでいただけるように構成しています。もちろん、ご希望に合わせてどのStepからでもご参加頂けます。ご興味のある方はぜひ! Step 1:カカオ豆からチョコレートになるまで  「Bean to...

カカオの品種とチョコレートの ”ちょっと複雑な関係” とは?

こんにちは。ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野智映子です。普段はオンラインクラスの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。今回は、オンラインクラスでも詳しく触れている、カカオの品種と、品種がチョコレートのフレーバーに与える影響についてお話しします。どんな食材でもそうですが、「品種」はその食材の価値を測る一つの指標になります。その分野に精通していなくても、例えば「日本3大ブランド米といえば、新潟のコシヒカリ、宮城のササニシキ、秋田のあきたこまち」、というような知識はあるものですよね。カカオも同様に、様々な品種があり、価値を測る一つの指標として示されています。 1. カカオの品種を知る 現在、カカオの主な品種はこちらの3系統に分類されています。 「クリオロ種」はフレーバーが豊かですが、病害虫に弱いため栽培しにくく、生産量は全体の約3-5%という希少種。世界でも生産量の極めて少ない「ホワイトカカオ」はこのクリオロの一種なのですが、とても貴重で幻のカカオとも評されています。対して「フォラステロ種」は、フレーバーは可もなく不可もなくというところですが、病害虫に強いため栽培しやすく、生産量は全体の約80%。主に大量生産のチョコレートに使用されると言われています。「トリニタリオ種」は上記2種の”いいとこ取り”をして掛け合わせたハイブリッド品種で、生産量は全体の約15~20%。トリニダード・トバゴで生まれたことからこの名前が付きました。上記のとおり、「クリオロ種=希少で良いカカオ」「フォラステロ種=安価なマスマーケット向け品種」という”レッテル”に近いものを貼られていますが、これはICCO (International Cocoa Organization)が「(品質の)良いカカオは、クリオロまたはトリニタリオの木からできたカカオである」という定義付けをしたことも影響しています。しかしその一方で、現在は遺伝学研究が進み、「実はカカオは10種に細分化出来るのでは・・・」という説も出てきました。これは2008年にUSDA(米国農務省)のJuan Carlos MotamayorとMars(米国の大手食品企業)の研究員によるグループが発表した考え。それによると、1,241種類の異なる地理的起源のサンプルを採取した結果、カカオは10種類のグループに分けられるというのです。(参考:https://www.nature.com/articles/s42003-018-0168-6)このように、カカオの品種については、まだまだこれから新しい研究結果が出てくる可能性が十分にあります。となると、まだ品種が完全に特定されない時点で、品種による価値は評価出来ないのでは? とも言えそうですね。 2. 品種はチョコレートのフレーバーにどのくらい影響するのか 私は、品種は最終的な商品(=チョコレート)に、そこまで大きなインパクトを与えるとは考えていません。もちろん全くゼロではありませんが、私がこのような意見を持つのには、大きく3つの理由があります。まず1つ目の理由は、「カカオの受粉方法」にあります。 カカオは、主に他家受粉(1つの植物の花粉が、異なる植物と受粉すること)をする植物です。多くの木が他の植物との受粉をし、ハーフやクオーターになっていきます。つまり、クリオロ種を植えたつもりでも、受粉を繰り返すことで「純粋なクリオロ」ではなくなっていくのです。もちろん単一品種を囲って生育することは可能です。しかし、そもそも他家受粉は遺伝的多様性、その植物が長く生き延びるための方法の一つなので、単一品種のみで生育するカカオは育てるのが難しいとされています(そのため希少とも言われます)。 2つ目の理由は「カカオの種の特性」にあります。チョコレートはカカオの種を使って作るのですが、実は、同じ品種のカカオの実から、全て同じ種が出てくるとは限らないのです。 通常、カカオを割ると中に20〜30個程の種が入っていますが(種の数はカカオの大きさにより異なります)、同じ親から生まれた兄弟でも顔や髪の色が異なるのと同様に、種たちも様々な形状をしています。例えば「クリオロ」と言われる品種の中でも種を割ってみると黄みがかったもの、うっすら紫のもの、真っ白なもの(これがホワイトカカオ)があります。私は幼少期シンガポールで育ったのですが、シンガポールは多民族国家で、中国人とマレーシア人のハーフ、中華系シンガポール人、マレー系中国人等ごちゃ混ぜで、純粋な「シンガポール人」にはあまり会いませんでした。それでも”I’m from Singapore”といえばシンガポール出身となるわけで、私はカカオもそんな捉え方でいいのかなと思います。「カカオの世界は多民族国家なんだ」と考えると、少し想像しやすくなりますよね。 さて最後に、私が「品種は最終的な商品であるチョコレートにそこまで大きなインパクトを与えるとは考えていない」最大の理由は、カカオは収穫後に「発酵・乾燥」するからです。 <発酵> <乾燥> カカオは収穫後、実と種を取り除いて1週間程度発酵箱に入れて発酵したのち、乾燥させて出荷されます。生産地によって様々ではありますが、多くの場合、カカオの栽培・収穫まではカカオ農家が、その後の発酵・乾燥・出荷は別の場所(多くは社会団体が作った発酵乾燥施設)で行います。この発酵乾燥施設では、周辺のいくつかの農園からカカオが集められ、同じ発酵箱に入ることも。つまり、この時点で品種がミックスする可能性があるのです。発酵には様々な手法があり、その時の気候や使用する機材によってもフレーバーが変わります。そしてこれが、最終的な「カカオの味わい」を決める一番のポイントになります。つまり、元々のカカオの品種によるポテンシャルに違いはあれど、良いとされる品種でも発酵を失敗してしまったら元も子もなく、一方で、さほど良い品種でなくても発酵が段違いに素晴らしければ、とても美味しいカカオ豆になるかもしれない、というわけなのです。 3. まとめ チョコレートメーカーならではの視点にはなりますが、フォラステロ種(安価なマスマーケット品種と言われる種)でも発酵工程によっては美味しいチョコレートを作ることができます。しかし、発酵がうまく行っていないカカオからは、それがどんなに良い品種であっても、美味しいチョコレートを作ることは、非常に困難です。それくらい、カカオの品質において発酵工程は重要。もちろん品種に特化するストーリーや意義はあると思います。しかしながら、そこから作られる「チョコレートの美味しさ」は、一概に「品種あってのこと」ではないのです。ちなみにダンデライオン・チョコレートでは、上記の理由から、品種を打ち出してはいませんが、農園を訪問し、農家や発酵施設の方々と直接お話しすることで、使用する豆を選んでいます。品種は一つの価値観である。カカオにおいては、そう捉えていただけると良いのかもしれません。 最後に、カカオやチョコレートについてもっと詳しく知りたいとご希望の方に、幅広くそして楽しく学んでいただけるよう、ダンデライオン・チョコレートでは、5つのオンラインクラスをご用意しております。Step1〜Step5まで、一つ一つ段階を踏んでいただくことで、さまざまな角度からチョコレートの世界を体験しつつ学んでいただけるように構成しています。もちろん、ご希望に合わせてどのStepからでもご参加頂けます。ご興味のある方はぜひ! Step 1:カカオ豆からチョコレートになるまで  「Bean to...