不安だらけのダンデライオン・チョコレート日本上陸、「世の中にとって必要なこと」がひとつの文化を根づかせる

「これは日本でやるべき」――サンフランシスコにあるダンデライオン・チョコレートの本店で、クラフトチョコレートが文化として定着する可能性を感じ取ったダンデライオン・チョコレート・ジャパンCEOの堀淵清治は、オーナーに働きかけて日本展開を実現させました。

ダンデライオン・チョコレートとの出会いから、日本上陸に至るまでの経緯、今後の構想について堀淵に聞いたインタビューの第2回。ここでは、日本展開に際してのエピソードと、ダンデライオン・チョコレートのビジョンについて紹介します。


Vol.1 なぜダンデライオン・チョコレートを日本に?“オタク感”あふれるチョコレートづくりと空気感を徹底再現

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堀淵清治(ほりぶち せいじ)
ダンデライオン・チョコレート・ジャパン CEO

早稲田大学卒業後の1975年に渡米。放浪の時期を経て、1986年に日本のマンガをアメリカで出版するビズコミュニケーションを、2011年にはサンフランシスコから日本のポップカルチャーを発信するNEW PEOPLE, Incを設立する。一方で、サードウェーブコーヒーブームを牽引した「ブルーボトルコーヒー」の日本招致に尽力したほか、2016年にダンデライオン・チョコレート・ジャパンを設立し、代表に就任した。

日本進出にあたっては不安だらけだった

──サンフランシスコのダンデライオン・チョコレートで体験された、「チョコレートってこうやって作るんだ」という驚きと感動が、日本での展開につながったのですね。

ダンデライオン・チョコレートは、カカオ豆の選定から買いつけ、選別を経て、チョコレートバーになるまでのすべての工程を自社のファクトリーで行いますが、そもそもチョコレートがカカオ豆からできていること自体、ほとんどの人が忘れていると思うんですよ。

――言われてみれば、普段意識することはない気がします…。

そうですよね。だからこそ、僕も初めてダンデライオン・チョコレートでそのことを教えてもらったとき、とても感動したんです。

ダンデライオン・チョコレートのオーナーたちは、遠い昔に編み出されたチョコレートの製法を現代にそのまま再現して、商品化にこぎつけました。「原材料はカカオ豆ときび砂糖だけ」というと、シンプルで簡単に作れるように感じるかもしれませんが、彼らがチョコレートの開発を始めた当時は、設備すらなかったわけです。

――確かに、そこからのスタートですよね。

チョコレートづくりに使う機械や道具の設計から、カカオ豆の焙煎やメランジング(※)にかける時間、きび砂糖を入れるタイミング、パッケージのデザインまで、すべてをゼロから考えて形にしていくプロセスは、イノベーションの連続です。まず、それがカッコイイでしょ。

そういうイノベーションや、製品や店に込められたオーナーの理念や思いを変えることなく、日本に受け入れられるようにトランスレートして、訪れる人にも僕と同じように「カッコイイな」「おもしろいな」と思ってもらいたいと思いました。

※メランジング…メランジャーと呼ばれるドラムシリンダーで、カカオニブと砂糖を合わせて挽き、滑らかなチョコレートにする工程。

――ただ、そういったイノベーションが日本で受け入れられるのかという不安はなかったですか?

それはもう、不安だらけでしたよ(笑)。
当時、アメリカでも日本でもBean to Barのお店ができ始めていたけど、機械ひとつとってもまだ手探りの状態。ほとんど前例がないわけだから、起業にあたっては日本でどれだけ投資してもらえるかもわからない。

お話ししたとおり、カリフォルニアには、新進気鋭の企業やユニークな取り組みをしているお店をみんなで盛り立てていこうという、イノベーションを受け入れる土壌があるんです。おもしろいからやってみようとチャレンジする人がいて、おもしろそうだから投資しようとする人がいる。
加えて、おもしろいからとりあえず店に行ってみよう、製品を使ってみようとする市民がいるんですね。

――「よくわからないけどおもしろそう」が通用する環境なんですね。

サンフランシスコのダンデライオン・チョコレートも、そういう街と、街に住む人、さらにはその可能性に賭けてくれる投資家に支えられて育ってきました。でも、日本にそうした風土は正直ありません。

「お客様に感動や驚きを伝えることができれば、なるようになっていく」というのが僕の持論ですが、ビジネスとして形にするには、やっぱりお金がなくちゃいけない。僕らのやろうとしていることに可能性を感じて、「一緒にやろう」と思ってくれる同志を見つけるのに一番時間がかかりました。

――同志となってくれた人たちは、どこに魅力を感じてくれたと思われますか?

ビジネスは、結局のところやってみなくちゃわからないもの。なので、自分がこれまでどういう発想で事業に取り組んで、どんな結果を残してきたのかを話して、信用してもらうしかありません。
そういう意味では、先にブルーボトルコーヒーが成功していたことは大きかったと思います。

――と、いいますと?

大衆的な飲み物としてコーヒーが普及した後、高品質の豆を深煎りするシアトル系コーヒーのブームを経て、僕が日本に持ってきたブルーボトルコーヒーは、作り手が見えるシングルオリジンで、焙煎や入れ方にもこだわったクラフトのコンセプトが受けて「サードウェーブの火つけ役」と呼ばれました。

よく似たコンセプトを持つブルーボトルコーヒーがひとつのムーブメントを起こした実績は、「ダンデライオン・チョコレートもいけるかもしれない」と思ってもらえるきっかけになったのではないでしょうか。

それから、世界の潮流に敏感な人の中に、いわゆるクラフトムーブメントが起きつつあることを察知して、興味を持っている人が少なからずいたことも追い風になりました。

ビジョンを伝えて理解を広め、文化として根づかせる

――そうしてダンデライオン・チョコレートの日本進出が実現して、近年はBean to Bar チョコレートもトレンドになっています。

海外で人気のお店を日本に持ってきて、ぱっと人を集めて、3年くらいでどんどん入れ替えていくようなビジネスモデルもあるし、あって良いと思うけど、僕はそういうやり方には興味がなくて。一過性のトレンドを作って、ブランドを消費するような形にしたくなかったんです。

その点、クラフトムーブメントには、一つひとつ手作りすることとか、生産工程が目に見えることとか、今の日本や世界にとって本質的なこと、やるべきことが反映されていて、瞬間的なブームでは終わらない予感があります。

――そうですね、これからの社会に必要なことが詰まっていると感じます。

そもそも、ダンデライオン・チョコレートのオーナーたちには、地球や人間にとって無理のないサステナブルな市場を作ることで、有機的に成長していこうとする気概がありました。
だから、カカオ豆の生産者とはダイレクトトレード(※)を行っていたり、カカオ豆の生産を通して野鳥の保護や森林の保全を行う農園と取引していたりするんです。

このように「世の中にとって必要なことをちゃんとやっている」ということを、商品や店舗での体験を通じて発信し続けていけば、日本でも僕らのビジョンを支持してくれる人が増えていくはず。
ダンデライオン・チョコレートの取り組みはブームとして消費されるのではなく、ひとつのカルチャーとして日本に根づかせていくことができるんじゃないかと思っています。

※ダイレクトトレード…ダンデライオン・チョコレートでは、使用するカカオ豆の産地に必ず訪れ、みずからの目で生産地、生産者、生活環境、カカオ豆を手にするまでの商流を把握した上で、価格を交渉して購入している。


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――次回は、蔵前に1号店を構えた理由から、ダンデライオン・チョコレートのこれからについて聞いていきます。


Vol.3 持続可能な世の中でなくなったら――古き良き文化が息づく蔵前から発信する、ダンデライオン・チョコレートの本質

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