カリブに浮かぶカカオの国 -ドミニカ共和国への旅

 

“わたしたちは自然と溶け合うことができる。ここにあるチョコレートバーをきっかけにして”


 


チョコレートメーカーとして、カカオ産地に赴き、現地の農家や発酵所の人たちと交流をする、というのは仕事の一部です。


そして、わたしたちダンデライオン・チョコレートは、その場所を多くの人たちと共有することも大切だと考えています。という訳で、2018年2月にChocolate 301(ベリーズへの旅)を日本のお客さま向けに準備中です。


それに先立ち、ダンデライオン・チョコレートのtomoが今回サンフランシスコ店で企画したChocolate 304(ドミニカへの旅)に参加しました。


 


ドミニカはカリブの島国の一つです。赤道を挟み、北緯20度から南緯20度までの一帯はカカオベルトと呼ばれ、カカオの産地が密集しています。その中でもドミニカにある複数のカカオ生産者からダンデライオン・チョコレートはカカオ豆を取り寄せ、チョコレートを作っています。良質なカカオが作られることで有名なこのカリブの島国。そこで過ごした1週間についてご紹介したいと思います。


 



 


ドミニカ共和国とオーガニックカカオ - 急がば回れ -


ドミニカ共和国のカカオ生産量は年間7万トン前後で、世界の中では10~20番目あたりを行ったり来たりというところです。この国で生産されるカカオの特徴は、オーガニックカカオの割合が70%程度という高品質さにあります。(参考:National Geographic)こうなったのは、1998年に大きな被害をもたらしたハリケーン・ジョージがきっかけだと言います。


カカオ農地はもとより、発酵所までも大きなダメージを受け、ドミニカ共和国は大切な輸出産業の一つであるカカオの生産基盤を失ってしまいました。国際的な援助活動が始まった時、生産者や政府は、ここで非常に重要な決断をします。「この際だから、将来のトレンドを見越したカカオ産業の復興を目指そう!」と。


食の安全やサステナビリティが大きく取り上げられ始めた時期とも重なり、彼らが率先して行ったのは、オーガニックカカオの生産基盤強化、そして品質向上を図るための発酵所の整備の二つでした。短期的な生産力回復ではなく、農産品のトレンドを見据えたこの時の決断が、今のドミニカ共和国産カカオの品質を支えています。


 



 


カリブの豊かな自然とカカオ作り -多様なカカオ生産スタイル-


イスパニオラ島はキューバの隣にあり、ハイチとドミニカ共和国はこの島を二分しています。この島の真ん中あたり(ドミニカ共和国の中では西側から南にかけての一帯)に大きな山岳地帯があります。東西にも重なる山並みを含め高低差に富む地形は、熱帯雨林気候と相まって、多様な植生を生み出し、果実や穀物など多くの恵みを生み出しています。


 



 


山深い中から平野部にかけての広い地域でカカオの木は生育します。土地の酸性度や日照、斜度や標高によって変化する水通しや僅かな天候の差異など、様々な味わいのカカオが育ちます。また、規模も様々で、年産数トンの農家から数百トン級のところまであります。


加えて発酵所の形態もいろいろです。農場の近くに設置されているケースもあれば、出荷しやすくするために平野部に大規模なものを構えているものもあります。経営形態も、カカオ農地と一体化したものや、発酵所だけの経営、また農協によく似た形で地域の農家が共同で運営しているものもあります。


今回の旅では、4つの発酵所を訪れ、それぞれ異なるアプローチで行われる生産スタイルを大いに学びました。


 



 


(1)Zorzal


今回の旅でベースにしているCabaretaからマイクロバスに揺られて走ること2時間半。尾根沿いにところどころ集落がありますが、車窓から見える光景は深い緑に覆われた森林地帯です。ここには世界最大級の鳥類保護区があります。自然を守るために開発が禁じられたこの区域のほとんどは公の資金で維持活動が行われています。ただ、広大なエリアを維持していくには不十分で、政府資金は必要額の25%程度しか見込めません。


Reserva Zorzalは民間の保護区として、その問題を乗り越えようとしています。Duarte群の山奥深い場所に位置する手付かずの自然を維持するにあたり、敷地の一部で農産物を生産しその利益をサステナビリティ維持に回して均衡を保とうとしています。こうした取り組みを行うには、生態系全体を十分理解すると同時に経済活動としての農業の実態を把握し、それらを実践していかなければなりません。


 



 


チャールズケルヒナー博士(みんなチャックと呼んでいます)は、学生時代からこの場所を対象としてサステナビリティについて研究してきました。博士過程を終え、Vivo計画と呼ばれるカーボンオフセットプロジェクトの下で、このReserva Zorzalを共同創業者として立ち上げ、この壮大な実験に自らを投じています。


1,000エーカー以上の広大な敷地をもち、ビッグネルツグミというアメリカ北東部とドミニカの間を行き来する渡り鳥の楽園を繁栄させながら、高品質のカカオを作るという作業は気の遠くなるような作業です。山深く草木が生い茂る険しい土地を損なうことなく、カカオの木を新たに植え、うまく育て、収穫できるように面倒をみていく必要があります。地形やマカデミアナッツの木などでうまく交雑を避け、高い品質と収量を確保することもぬかりありません。セクションは10個ほどに分けられ、25年以上の樹齢の昔からあったところから、昨年新たに接木をしたところまであります。自然に恵まれながらも、その土地のサステナビリティを維持するという条件下で、チャック達は年間1t/haの収量を達成しています。実験的取り組みのハイライトと言えます。


発酵所は山の中で作業をするには、収穫したものを手際よく処理するには向いていますが、他の地域のカカオを運んできたりするには困難だらけです。しかし、チャック達はサステナビリティを体現する意味でも、尾根筋に発酵所を作り、ローカルの人たちと汗を流しています。今年は数人がエクアドルへ研修に行き、発酵前の処理法を学び改良を加えたといいます。


農園を歩けば、そこはまさにジャングルの中。谷筋を降りていけば、透き通った川があり、ひんやりした中で泳ぐこともできます。雨が降れば、近くにあるバナナの木の葉っぱを取り傘がわりにします。


昼は思い切り汗をかき、日が沈む頃には素朴な食事と共に酒を酌み交わし、音楽とダンスをひとしきり楽しんだら、満天の星に包まれながら眠りにつきます。鳥達のさえずりが夜明けを告げ、新しい一日を迎えます。


 


Zorzalのカカオ豆を使用したチョコレートバー:ソルサル, ドミニカ共和国70%


 



 


 


(2)Oko-Caribe


Cabareteの街から山を超え2時間半以上進み、平野部に入るとこれまで見なかったような繁華街があり、その先に工業地帯が広がります。有名な食品企業も工場を構え、カカオが一大産業なのだと実感します。


Oko-caribeはこの平野部で発酵所として事業を行なっています。契約をしたカカオ農家からウェットビーンズ(発酵前の豆)を買い取り、発酵と乾燥を行なって、出荷しています。


豆の品質を一定にするために、カカオの苗木を作り、農家に配布し、農業指導や収穫タイミングのチェックなどを細かく行なっています。規模は平野部に展開した分、大変広く、Zorzalの何倍もの規模です。それでも、高品質のカカオを生産し出荷するのが一番だと心得て、わたしたちをはじめ世界中のクラフトチョコレートメーカーに良い製品を出荷しています。先ほどの、Zorzalとはまた異なる光景ですが、品質と量をバランスさせて行こうというスタイルが貫かれています。


 


Oko-caribeのカカオ豆を使用したチョコレートバー:サンフランシスコ・デ・マコリス, ドミニカ共和国70%


 



 


(3)Roig


Oko-caribeに近く工業地帯の一角にあるRoigを訪問しました。こちらは、ドミニカ共和国内でも最大級の発酵・販売業者です。到着後、ビジターのバッチを渡され、門にはセキュリティの職員がいたりと、今までとは少し雰囲気が違います。カカオを取り扱うということが、生活の中から切り出され、産業としての力を見せています。


中にある、たくさんある発酵箱や乾燥のための棚、そして出荷のために積み上げられた袋の山。フォークリフトや多くの装置が、規模の違いを見せつけます。こちらではサンチェス(安価なカカオ豆:発酵させていないか、うまく発酵できていない)ヒスパニョラ(高めのカカオ豆:比較的うまく発酵できている)の両方を受け入れています。たくさんの量の豆を出荷していくために、量の方を重視したカカオ作りを行うというメッセージが伝わります。これも一つの合理的な答えなのだと思います。


 



 


(4)Conacado


Conacadoは協同組合として発酵所や出荷手続きなどを行なっている組織です。ここは、ちょうど、Zorzalのような山深い中とOko-caribeやRoigがある工業地帯の間にある、いわば「里山」的な所にあります。1988年に設立されてから、農業指導、発酵所、オーガニック認証や輸出などを行い、各農家の経済基盤の強化と高品質カカオの国際的認知度の向上を目指しています。協同組合ということで、これまでの訪問先と比べて、肩肘張らずにそれぞれの機能が動いているように感じます。


1988年の設立時は、約160万アメリカドルの売り上げだったのが、2016年には4,880万ドルまで増えたそうです。その間に扱うカカオも、無発酵かほぼ発酵していないサンチェスが全体の97%という状況から、発酵を行ったヒスパニョーラが65%へと大幅に製品の様相を変え、その間に参加する農家への資金サポートや農業指導などで着実にその業績を伸ばしているそうです。


案内してくださった方が終始ニコニコで、なんだか近所のおばちゃんっていう親近感がとても印象的でした。


 



 


カカオを生産し、それを売る、その行為について、どれが正しいかどうかなんて答はありません。この国には、場所や規模、目的とするものが異なる個性的なカカオ生産者がいます。ここのカカオ生産者たちと、好きなチョコレートのこと、そのチョコレートを楽しんでくださるたくさんの方々の笑顔などなど、ありのままに共有し心を通わせること。それが何よりも大切なんだと改めて感じます。


 


自然豊かな日常 -カカオの国を、心で、そして身体で感じる-


カカオ産地を訪問する旅は多くの人たちにとって非日常体験です。言葉はスペイン語で、たくさん走るオートバイタクシーなどもエキゾチックにすら感じます。


今回の旅はカカオ産地を訪問するだけでなく、カヤックやカイトサーフィンなどのマリンアクティビティ、サルサを踊るなどたくさんの体験をしました。旅の起点となったCabareteという所はリゾート地であると同時に、リタイアメントの場所としても人気の場所です。プールやビーチで読書や日向ぼっこをしたり、お土産物を買いに出たり、タコスショップに行ったり、夜には街中のレストランに入ってみたり...と楽しみは尽きません。


ダンデライオン・チョコレートのツアーはこうしたところも大切だと考えています。その土地に行ったら、丸ごと受け入れ、委ね、その中で自分自身がコミュニティに繋がれていく、そんな気持ちなのです。


 



 


プロローグ


サンフランシスコに住む私たちは、Puerto Plata空港からNewark(EWR)に移動したあと、国内線で移動しました。Puerto Plataの空港にある免税店でローカルのラムを皆買ったのですが、米国内の国内線でそのお酒をチェックインしなければなりません。たくさんのカカオ豆サンプルをジップロックに入れて満載になったスーツケースに、無理やり、ラムを押し込んで再度チェックイン。夜中にサンフランシスコに到着し、ダンデライオン・チョコレートのスタッフはそれぞれの家路に着きました。


わたしもさすがに疲れ果て、そのままベッドで泥のように眠り、翌日の朝。カバンをあけたところ、ジップロックからはみ出したカカオ豆が元気よく飛び出してきました!


旅の間、ずっと馴染んでいたカカオの香りが家の中に充満し、自宅は一瞬にしてドミニカに。笑


ちなみに、カカオサンプルはきちんと回収し、蔵前のファクトリーでテストをすでに始めています。


 


Text by tomo


 



    • 今回の旅の情報


Chocolate 304(ドミニカへの旅)


旅程:2017年5月27日~6月3日(現地集合解散)


訪問国:ドミニカ共和国


現地言語:スペイン語


 



    • 次回のベリーズへの旅情報


Chocolate 301(ベリーズへの旅)

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