1月28日(土)・29日(日)と2日間にわたって開催した“Craft Chocolate Festival presented by Bean to Bar Summit(CCF)”。ご要望にお応えして、1日目に行われたトークセッション、”Bean to Bar Talk”の内容を今回から3回の連載でご紹介していきたいと思います。
正午から開幕したCCF。国内外のBean to Bar関係者のみならず、Bean to Barに関心を持っている方々が多方面から集い、100人近くの来場者が一堂に会する熱気に包まれたイベントとなりました。
昨年9月に開催したBean to Bar Summitをさらに発展させた今回のイベントでは、基調講演はパリを拠点に活躍するカカオ鑑定家、クロエ・ドゥートレ・ルーセルさんにお願いしました。クロエさんはチョコレートに関するガイドツアーやワークショップなどを幅広く企画・運営し、チョコレートの愉しみ方を広めています。また、「サロン・デュ・ショコラ」のディレクターでもあります。
クロエさんの基調講演では、Bean to Barを単なるジャンルではなく、「クラフトマンシップ」が根底にある「クラフトチョコレート」として捉え、このチョコレートの誕生から今後の課題まで、他ではなかなか聞くことができない興味深いトピックが語られました。
アメリカでBean to Barが誕生してから約20年。現在では日本にも60以上のクラフトチョコレートメーカーが存在します。
クラフトチョコレートはなぜこれほどまでに人々を魅了するのか?
クラフトチョコレートは今後どのような局面を迎えるのか?
クロエさんの基調講演から探っていきたいと思います。
クロエ・ドゥートレ・ルーセルさんの基調講演の全容はこちらからご覧いただけます
クラフトチョコレートの誕生
今から20年前、Bean to Barは大量生産されているチョコレートへの反動として、アメリカで生まれました。発端となったのは、サンフランシスコ近郊でオープンしたScharffen Berger Chocolates(シャーフェン・バーガー・チョコレート)というブランドです。Scharffen Bergerのチョコレートは、カカオの風味は勿論のこと、フルーツやナッツ、キャラメルのような味わいも持ち合わせており、鮮烈で複雑なものでした。
ここから「Bean to Bar」ムーブメントは発展しました。このアメリカ発祥の小さな動きは急成長を遂げ、今では世界的なトレンドとなっています。150以上のブランドがヨーロッパやカカオ豆の生産国にまで広がりました。
アメリカから日本へ
2008年、Emiliy’s Chocolates(エミリーズ・チョコレート奥沢)と共に日本にも「Bean to Bar」というコンセプトが上陸しました。
その後、Bean to Bar ショップが短期的に東京駅の地下街にオープン。フード関係誌はこのトピックについて10ページにも及ぶ記事を掲載しました。カカオ豆を取り扱う専門商社である立花商店は、カカオ豆からチョコレート作りが体験できるイベント「Tokyo Chocolate Salon」を開催しました。
クラフトチョコレートの影響
クラフトチョコレートは、カカオ豆の生産国にとって非常に重要な影響力を持っています。
クラフトチョコレートメーカーが良質なカカオを市場価格より高値で購入すること、消費者が本当の意味で高品質なチョコレートを購入すること。そうした一つ一つの行為は、カカオ豆の生産者にインセンティブをもたらします。彼らの持続的な経営を可能にすることに加え、香り高い遺伝子を持つカカオ豆や、生産性と耐病性を誇る良質なカカオ豆を残していくことにも繋がります。長期的には、生産者の家族がより良い生活を送り、その子供たちも都市に移住せずに農園に残る選択肢を選ぶことが可能となるのです。
過去3年間で、日本におけるクラフトチョコレートの世界は大きく成長しました。クラフトチョコレートという文化の円熟によって、より上質で多様なチョコレートが普及し、人々は美しく感覚的な体験を楽しめる様になったのです。
今回の基調講演のように、クラフトチョコレートの意義について深く語られる機会はそれほど多くありません。チョコレートの歴史から見ると、誕生して間もない「Bean to Bar」。しかしながら、その影響は消費者や製造メーカーだけでなく、その先の農家や発酵所に携わる生産者の生活、さらにはカカオ豆の品質にまで及んでいます。
今回の基調講演を聞き、クラフトチョコレートの未来を作っていく1つのメーカーとしてわたしたちも、こうした事実をさらに広めていきたいと強く感じました。
次回のCraft Chocolate Festival (2)では、海外のBean to Bar関係者によるパネルディスカッションの模様をお伝えいたします。
Bean to Bar Summit 2016 パネルディスカッション全文はこちら
Photo by Yuki Ohara