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カカオの品種とチョコレートの ”ちょっと複雑な関係” とは?

こんにちは。
ダンデライオン・チョコレートで「チョコレート・エクスペリエンス」という部署を担当している伴野
智映子です。普段はオンラインクラスの講師として、皆さんにチョコレートの魅力や奥深さをお伝えしています。

今回は、オンラインクラスでも詳しく触れている、カカオの品種と、品種がチョコレートのフレーバーに与える影響についてお話しします。

どんな食材でもそうですが、「品種」はその食材の価値を測る一つの指標になります。
その分野に精通していなくても、例えば「日本3大ブランド米といえば、新潟のコシヒカリ、宮城のササニシキ、秋田のあきたこまち」、というような知識はあるものですよね。

カカオも同様に、様々な品種があり、価値を測る一つの指標として示されています。

1. カカオの品種を知る

現在、カカオの主な品種はこちらの3系統に分類されています。

「クリオロ種」はフレーバーが豊かですが、病害虫に弱いため栽培しにくく、生産量は全体の約3-5%という希少種。世界でも生産量の極めて少ない「ホワイトカカオ」はこのクリオロの一種なのですが、とても貴重で幻のカカオとも評されています。

対して「フォラステロ種」は、フレーバーは可もなく不可もなくというところですが、病害虫に強いため栽培しやすく、生産量は全体の約80%。主に大量生産のチョコレートに使用されると言われています。

「トリニタリオ種」は上記2種の”いいとこ取り”をして掛け合わせたハイブリッド品種で、生産量は全体の約15~20%。トリニダード・トバゴで生まれたことからこの名前が付きました。

上記のとおり、「クリオロ種=希少で良いカカオ」「フォラステロ種=安価なマスマーケット向け品種」という”レッテル”に近いものを貼られていますが、これはICCO (International Cocoa Organization)が「(品質の)良いカカオは、クリオロまたはトリニタリオの木からできたカカオである」という定義付けをしたことも影響しています。

しかしその一方で、現在は遺伝学研究が進み、「実はカカオは10種に細分化出来るのでは・・・」という説も出てきました。
これは2008年にUSDA(米国農務省)のJuan Carlos MotamayorとMars(米国の大手食品企業)の研究員によるグループが発表した考え。それによると、1,241種類の異なる地理的起源のサンプルを採取した結果、カカオは10種類のグループに分けられるというのです。
(参考:https://www.nature.com/articles/s42003-018-0168-6

このように、カカオの品種については、まだまだこれから新しい研究結果が出てくる可能性が十分にあります。となると、まだ品種が完全に特定されない時点で、品種による価値は評価出来ないのでは? とも言えそうですね。

2. 品種はチョコレートのフレーバーにどのくらい影響するのか

私は、品種は最終的な商品(=チョコレート)に、そこまで大きなインパクトを与えるとは考えていません。
もちろん全くゼロではありませんが、私がこのような意見を持つのには、大きく3つの理由があります。

まず1つ目の理由は、「カカオの受粉方法」にあります。

カカオは、主に他家受粉(1つの植物の花粉が、異なる植物と受粉すること)をする植物です。多くの木が他の植物との受粉をし、ハーフやクオーターになっていきます。つまり、クリオロ種を植えたつもりでも、受粉を繰り返すことで「純粋なクリオロ」ではなくなっていくのです

もちろん単一品種を囲って生育することは可能です。しかし、そもそも他家受粉は遺伝的多様性、その植物が長く生き延びるための方法の一つなので、単一品種のみで生育するカカオは育てるのが難しいとされています(そのため希少とも言われます)。

2つ目の理由は「カカオの種の特性」にあります。
チョコレートはカカオの種を使って作るのですが、実は、同じ品種のカカオの実から、全て同じ種が出てくるとは限らないのです。

通常、カカオを割ると中に20〜30個程の種が入っていますが(種の数はカカオの大きさにより異なります)、同じ親から生まれた兄弟でも顔や髪の色が異なるのと同様に、種たちも様々な形状をしています。例えば「クリオロ」と言われる品種の中でも種を割ってみると黄みがかったもの、うっすら紫のもの、真っ白なもの(これがホワイトカカオ)があります。

私は幼少期シンガポールで育ったのですが、シンガポールは多民族国家で、中国人とマレーシア人のハーフ、中華系シンガポール人、マレー系中国人等ごちゃ混ぜで、純粋な「シンガポール人」にはあまり会いませんでした。
それでも”I’m from Singapore”といえばシンガポール出身となるわけで、私はカカオもそんな捉え方でいいのかなと思います。
「カカオの世界は多民族国家なんだ」と考えると、少し想像しやすくなりますよね。

さて最後に、私が「品種は最終的な商品であるチョコレートにそこまで大きなインパクトを与えるとは考えていない」最大の理由は、カカオは収穫後に「発酵・乾燥」するからです。

<発酵>

<乾燥>

カカオは収穫後、実と種を取り除いて1週間程度発酵箱に入れて発酵したのち、乾燥させて出荷されます。
生産地によって様々ではありますが、多くの場合、カカオの栽培・収穫まではカカオ農家が、その後の発酵・乾燥・出荷は別の場所(多くは社会団体が作った発酵乾燥施設)で行います。
この発酵乾燥施設では、周辺のいくつかの農園からカカオが集められ、同じ発酵箱に入ることも。つまり、この時点で品種がミックスする可能性があるのです。

発酵には様々な手法があり、その時の気候や使用する機材によってもフレーバーが変わります。そしてこれが、最終的な「カカオの味わい」を決める一番のポイントになります。

つまり、元々のカカオの品種によるポテンシャルに違いはあれど、良いとされる品種でも発酵を失敗してしまったら元も子もなく、一方で、さほど良い品種でなくても発酵が段違いに素晴らしければ、とても美味しいカカオ豆になるかもしれない、というわけなのです。

3. まとめ

チョコレートメーカーならではの視点にはなりますが、フォラステロ種(安価なマスマーケット品種と言われる種)でも発酵工程によっては美味しいチョコレートを作ることができます。しかし、発酵がうまく行っていないカカオからは、それがどんなに良い品種であっても、美味しいチョコレートを作ることは、非常に困難です。

それくらい、カカオの品質において発酵工程は重要。もちろん品種に特化するストーリーや意義はあると思います。しかしながら、そこから作られる「チョコレートの美味しさ」は、一概に「品種あってのこと」ではないのです。

ちなみにダンデライオン・チョコレートでは、上記の理由から、品種を打ち出してはいませんが、農園を訪問し、農家や発酵施設の方々と直接お話しすることで、使用する豆を選んでいます。

品種は一つの価値観である。
カカオにおいては、そう捉えていただけると良いのかもしれません。

最後に、カカオやチョコレートについてもっと詳しく知りたいとご希望の方に、幅広くそして楽しく学んでいただけるよう、ダンデライオン・チョコレートでは、5つのオンラインクラスをご用意しております。Step1〜Step5まで、一つ一つ段階を踏んでいただくことで、さまざまな角度からチョコレートの世界を体験しつつ学んでいただけるように構成しています。もちろん、ご希望に合わせてどのStepからでもご参加頂けます。
ご興味のある方はぜひ!

Step 1:カカオ豆からチョコレートになるまで 
 「Bean to Bar チョコレートのつくりかた」

Step 2:チョコレートをタイプ別に詳しく解説
 「進化するチョコレートの世界」

Step 3:チョコレートの原点を知ろう
 「奥深いカカオの世界」

Step 4:旅するチョコレート
 「知っておきたいおすすめチョコレートガイド」

Step 5:産地を知るとより美味しい
 「カカオの生産地とチョコレート」

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