クラフトチョコレート日記「チリ サンチアゴ編」(2)

「チリ サンチアゴ編」(1) に引き続き、Bean to Bar チョコレートメーカーBOLO Chocolate のマークとの出会い、旅の中で体験したことについてご紹介します。





BOLO Chocolate はシンプルながらとてもキュートなお店です。彼の家族や仲間、そしてこの土地への愛で満ち溢れています。
経済的にも不安定なチリで機械を取り揃え、ペルーからカカオ豆を買い付け、チョコレートの製造・販売を行うのは、大変な苦労だと察します。それでも笑顔が絶えないのは、サンチアゴの人にもクラフトチョコレートを手にとってほしいという強い想いが、生きる原動力になっているからだろうと思います。
忙しい毎日を送っているのだと容易に想像がつくだけに、クラフトチョコレートメーカー同士というだけで、こんなに時間を使ってもらい恐縮すること然りです。





ホテルに戻って、ピスコバー、タパスバー、ビストロなどを数軒ホッピングして、サンチアゴの夜を十分に楽しみました。

滞在2日目は、 市内を散策。歩いて中央市場 に行き、ランチはホテルの近くのカーブサイドのカフェで軽くビールとタパスを食べました。
贅沢な午後の時間を過ごしていると、マークがホテルまで迎えに来てくれました。友人がやっているというワイナリーへ連れて行ってくれるそうです。サンチアゴから車で30分くらいのところにあるワイナリーを目指します。

建物が連なるサンチアゴ市街地を超え、丘陵地帯に入るとそこにOdfjell vineyards というブティックワイナリー*がありました。ブティックワイナリーといっても、その規模はとても大きいもので、見通しのよい土地にビオディナミ**で栽培されたブドウの木と、ワイナリーがあります。
ワイナリーは、モダンヨーロッパを感じさせる建物で隅から隅まできっちりと仕上げられていて、中もとってもクリーンです。建築家であるご子息が設計されたようで、統一感があります。





ワイナリーのオーナーは、海運業で成功したノルウェーのダンとそのご子息。25年ほど前にこの土地に惚れ込み、自らの資金を使ってワイナリーを運営しているとのこと。ダンは、シンガポールにいることが多く、ここには年に数ヶ月滞在されるそうです。
ダンはマークのビジョンに共感し、彼のクラフトチョコレートのビジネスを支援してくれているそうです。そのような理由もありBOLO Chocolate の商品はシンガポールでも販売されています。

ダンの大きなビジョンの一つのピースとして、マークの考えがぴったりとハマったのだろうと推察します。ワインとチョコレートという組み合わせはもとより、ぶどう作りから一貫して作り上げていくワインメーカーとカカオからチョコレートになるまでの全ての工程を行うBean to Barメーカーとの共通点が見えます。 海運業というバックグラウンドを持ち、大局観に優れ、港や船、荷物の流れなど、いろいろな要素を組み合わせ運営していくダンは、マークにとって素晴らしい支援者だろうと感じます。





マークにワイナリーを案内してもらい、大変景色の良いテラスに出てきました。
ワインとBOLO Chocolate 、そしてわたしたちのチョコレートとのペアリングを行うことに!ここでは、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック、カリニャン、シラーなどが育てられ、様々なワインが作られています。ダンデライオン・チョコレートからは、マヤ・マウンテン, ベリーズ、ソルサル, ドミニカ共和国、コスタ・エスメラルダス, エクアドル 、ココア・カミリ,タンザニア、アンバンジャ・マダガスカルなど7~8種類を用意しました。 興味深いペアリングを見つけては、あれもいいなこれもいいなと話に花が咲きます。面白いほど、味の広がりが楽しめます。





マークと話していると、まるで昨日初めて会った人とは思えなくなってきました。チョコレートメーカーとして同じ言葉を使うことができるのも幸運です。
マークはBOLO Chocolate を日本でも販売したいと話します。そこで、Craft Chocolate Market Chocolateを紹介すると、とても興味を持ってくれました。来年の開催が楽しみです。





生産国では、カカオは自らが消費するためではなく、換金作物として作られてきたという歴史があります。マヤ地方で薬としてチョコレートの原型が作られたと言われていますが、現在のチョコレートの形に行き着いたのはヨーロッパでした。カカオの生産地とチョコレートを作る場所は歴史・距離ともに離れています。
さらに、帝国主義の時代、ヨーロッパの国々は中南米やアフリカの国々を植民地化していきました。その中で、コーヒー豆やカカオはプランテーション作物として極めて安い値段で買取られる仕組みが構築され、先物取引の対象になったり、国際間の取引で独占性を持つブローカーが現れたりする構造が作り上げられていきました。
こうした背景が、カカオの生産地とチョコレートの製造場所を分離し、カカオの品質にほとんど左右されず不当なほど安値で取引きされる状況を固定化してしまったと言えます。
クラフトチョコレート、Bean to Barと言われるムーブメントは、こうした状況に風穴をあける可能性を秘めています。

わたしたちダンデライオン・チョコレートは、この問題に取り組むにあたって、直接産地を訪れ、カカオ生産者と向き合い、品質の良いカカオ豆に対して相応の金額で買付けるという、「ダイレクトトレーディング」と呼ばれる方法を使っています。(カカオ農園のこと、わたしたちのビジネス全体への取り組み方など、詳しくお知りになりたい方はソーシングレポートをどうぞ)

そして、もう一つの流れは、まさにマークの発想のように、カカオの生産地とチョコレートを作る場所を近づけるものです。究極的にはカカオ生産の横でチョコレートを作ることを志向することになるので、「Farm to Bar」などと呼ばれることもあります。





随分とワイナリーに長居をしてしまいました。改めて葡萄畑を案内してもらい、サンチアゴに戻ります。世界のどこかで必ずまた会おうと約束をして、マークと別れます。
楽しい一日の体験と新たな友人との会話の余韻を感じながら、サンチアゴでの最後の夜を楽しむことにしました。
マーク、本当にありがとう。



Text by Tomo

掲載日 : 2018.07.26



*ブティックワイナリー : 1970年代にアメリカのカリフォルニア州で使われるようになった言葉で、中規模かつ品質志向をもつワイナリーを指すワイン用語。

**ビオディナミ : オーストラリアの神秘思想家ルドルフ・シュタイナーが提唱した農法。有機栽培の一種で、太陰暦に基づいた「農業暦」にしたがって天体からの力と地球からの力を利用し健康な土壌を育て、種まきや収穫などを行う。
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