2023年2月、ドミニカ共和国のカカオ生産者「ソルサル・カカオ」が、カカオでは世界初となるスミソニアン・バードフレンドリー®(Smithsonian Bird Friendly®)認証を取得しました。
スミソニアン・バードフレンドリー®認証とは、「森林を保護し、鳥類などの野生動物を保全している農園で生産された」ことを100%保証する唯一の認証です。
この記事では、バードフレンドリー®認証について、またソルサル・カカオの試みや取り組みについてご紹介します。
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バードフレンドリー®認証はなぜできた?
バードフレンドリー®認証プログラムは、1999年にアメリカで始まった、森林や鳥類など野生動物を保護・保全している農園で生産された物であることを保証する認証制度です。
この認証制度は、1990年代後半、北米と中南米を行き来する渡り鳥が、1970年と比べて30億羽も激減していたことが確認されたことに端を発します。
スミソニアン渡り鳥センター(Smithsonian Migratory Bird Center)が調査したところ、渡り鳥の休息地が直射日光ではなく木陰でコーヒーを育てる農園(シェードグロウン)となっていることを発見したのです。
そこで、渡り鳥の休息地となる原生林を保持しつつ、オーガニック農業でコーヒーを栽培する農園にバードフレンドリー®認証を付与するプログラムを1999年から開始しました。
バードフレンドリー®認証を得るには?
バードフレンドリー®認証を付与するプログラムとは、森林を利用したシェードグロウン栽培に加え、有機栽培で生産されたコーヒーをプレミアム価格で買い取ることで、生産農家を支えながら森林伐採を防止し、そこで休む渡り鳥を守るというもの。
ここで生まれた収益は、スミソニアン渡り鳥センターの研究調査資金として、世界中の渡り鳥や生態系保護のために利用されています。
バードフレンドリー®認証取得のためには、各農園が次のような一定の条件を満たしていることが必要です。
- 農地の50%を森林として確保する、もしくは1ヘクタールあたり11種以上の樹木を含む樹冠被覆率(枝や葉が覆っている面積)を30〜40%以上維持すること
- 農園がオーガニックであること
ソルサル・カカオがバードフレンドリー®認証を取得するまで
ソルサル・カカオ創設者の一人、チャールズ・キルヒナー
このプログラムがカカオにも派生したことをきっかけに、カカオで最初の認証を得たのが、ソルサル・カカオです。
ソルサル・カカオのミッションは、「カカオの販売を通じて、生物多様性保全の資金を調達し森を守る」こと。
創設者の一人、チャールズ・キルヒナー(通称チャック)は、生物多様性の保全において注目されているエリアと、カカオの栽培地域が相関していることから、ドミニカ共和国のドゥアルテ州の山中に412ヘクタールに渡る未開発の土地を購入し、カカオを通じてこの地域の経済活動を活性化させることにしました。
この土地は、ビックネルツグミという渡り鳥が、バーモント州の雪を避け越冬するために訪れる貴重な場所。
ソルサル・カカオではその面積の70%をツグミの保護区(レゼルバ・ソルサル)として「永久に完全な自然状態」で維持し、残りのエリアで高品質カカオを栽培しています。
自然環境が破壊されるにつれて減少する渡り鳥の休息地として、カカオを栽培しながらその収益を森林保全に利用してきた彼らにとっては、この認証を取得するのは自然な流れでもありました。
そして、20年以上コーヒーだけの認証だったバードフレンドリー®認証を、カカオで初めて取得することになったのです。
ソルサル・カカオでは、自身の農園以外にも保護区近隣に住む17のカカオ農園からもカカオ豆を購入しており、そのすべてがバードフレンドリー®認証を取得しています。認証取得にかかる諸経費はソルサル・カカオで負担し、より多くの農園が認証を取得しやすくなるよう配慮しているそうです。
カカオについて深く学び、カカオに関わる人たちが繋がるために
スミソニアン渡り鳥センターの調査によると、日陰のない集約農場(一定面積の土地に多量の資本・労働を投下して、土地を高度に利用する農業経営)では、そこにいる鳥類の総数が4倍も減少するそうです。
多様な樹木がなければ、鳥は餌として必要な昆虫や果実、そして生息する場所も不足してしまいます。また、単一植物による生産では、収穫量を増やすために農薬や肥料の散布に頼らざるを得ません。
さらに、集約農場の経営は寿命が限られており、カカオの場合最大20年ほど生産することは可能ですが、その後、生産性は崩壊してしまいます。
このような状況を改善するためにも、彼らは頻繁に農園訪問を企画しています。
ソルサル・カカオのファームステイを体験できるソルサル・チョコレート・ウィークや、カカオの栽培や品質管理について専門的に学ぶココア・マスタークラスなど、カカオの収穫から発酵施設の見学、時には学術的なクラスの開催まで、多くの人がカカオ栽培の現状を知り、知識を増やせる活動をしています。
チョコレートメーカーだけでなく、シェフや農園経営者などが参加し、ソルサル・カカオの農園のことだけでなく、カカオ生産の今後やカカオが地球環境に対してできることをはじめ、より広い視点でチョコレートを理解する機会を与えてくれています。
ツグミの鳴き声を聴きながらハイキングしていると、生い茂った木々の合間から、自然の中で伸び伸びと育った「森に生きるカカオ」を見ることができます。
ソルサル・カカオは、カカオに関わる人たちが実際に見て体験して感じること、生産者と製造者、消費者が繋がることをとても大切にしています。
これから私たちができること
ソルサル・カカオの取り組みは、森林保全とカカオ豆の生産を両立させているモデルケースとして、世界のカカオ業界からも注目されています。
ダンデライオン・チョコレートとして、私たちがソルサル・カカオのカカオ豆を使うことで少しでも森林保全に貢献できていること、そしてこのカカオ豆でチョコレートを作ることができることに感謝と誇りを持って、日々の製造に励みたいと思います。
また、鳥にも地球にも優しいサステナブルなチョコレートを選ぶことも、私たちがこれからの未来に向けてできる、ちょっとした「良い」アクションになるのではないでしょうか。