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チョコレートと児童労働

「チョコレート」と切り離せない問題として近年取り上げられることが多くなった、カカオ生産地における児童労働の問題。なぜこのような問題が起きているのか、現在の問題点や今後の課題を解説し、消費者として私たちがどのようにチョコレートと向き合うべきか、考えてみたいと思います。

なぜカカオの奴隷制度は始まった?

そもそもなぜ、カカオ栽培において奴隷や子どもたちが働かなければいけない状況になったのでしょうか?実はこれはカカオの長い歴史の中から生まれたものでした。1521年、スペインがメキシコ中央部に栄えたアステカ帝国を征服したことで、カカオは中央アメリカからヨーロッパへ渡り、貴族や王族を中心に一気に広まります。

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カカオの需要が拡大し、また非常に高値で売買されたことから、1800年代後半になるとヨーロッパ各国は植民地支配をしていたアフリカの国々に次々とカカオ農園をつくります。また、ヨーロッパでは甘いチョコレートが好まれたため砂糖も消費するようになり、砂糖のプランテーションも同時に始まりました。カカオと砂糖、現在のチョコレートに必要不可欠な原材料は、古くから植民地支配された国々が安価な労働力によってつくられていたということになります。

なぜ今も児童労働は続いている?

2000年頃からカカオ栽培における児童労働の問題が取り上げられるようになりましたが、今も撲滅できずにいるのが現状です。

世の中がサステナブル、エシカル、SDGsと言った言葉に関心が高まる中、この問題が解決できない理由には、カカオの複雑な商流(カカオがどのように私たちの手元にチョコレートとなって届くか)にあります。

大企業を除き、チョコレートブランドの多くはその原料を問屋や卸業者を通して「製菓用チョコレートメーカー」から購入しています。製菓材料店で見かけるヴァローナやカレボーなどの海外メーカー、大東カカオなど国産メーカーがあります。

こうした製菓用チョコレートメーカーは、チョコレートを製造するために輸出入業者を介してカカオ豆を購入しますが、それはカカオ農家からではなく、カカオ生産国か隣国にある、複数産地のカカオ豆をある程度とりまとめている卸業者の場合もあります。その卸業者は生産地にあるカカオ豆の発酵・乾燥を行う加工所、または加工所で出来たカカオ豆の品質を一定にするためにブレンドされる倉庫などから購入します。そして加工所がカカオ農家から発酵・乾燥前のカカオ豆(ウェットビーンズ)を購入する、とようやくここでカカオ農家にたどり着きます。

さて、ここにいくつの業者や企業が関わっているでしょうか?この商流はもっとシンプルな場合も、もっと複雑になる場合もありますが、いずれにせよ、こうなってしまうとチョコレートブランド側ではカカオ生産者が誰かまでなんて、把握できるはずがありません。そしてこの複雑な商流こそが、児童労働や過酷な労働環境を根絶できない最大の理由でもあります。複雑が故に、どこが原因で起きているのか、誰が何をどう改善すればなくなるのか、根本的な原因が探りにくいため解決策が出にくい、ということが挙げられます。

もちろん、カカオ生産国自体が貧困国で奴隷や児童労働に頼らざるをえないという生産国自体の問題もあります。しかし、カカオ生産国以外のカカオ豆を購入している国々によって起きる問題として、私たち消費国が目を背けてはいけないことです。

現在起きていること、チョコレートメーカーの取り組み

カカオの児童労働を巡っては、人権保護団体がチョコレートを扱う欧米の大手企業やチョコレートメーカーを訴え、現在複数の裁判が行われています。

2021年6月には、米国連邦最高裁判所が大手チョコレートメーカー2社に対して、児童労働や強制労働が行われた責任を問うことはできない、と異例とも言える判決を下しました。日本で報道を目にすることはありませんでしたが、海外のBean to Bar チョコレートメーカーの中には「ありえない」「絶対に買ってはいけない」「だからBean to Bar チョコレートは安心なんだ」と極端な発言をしている場面も見受けられました。

確かに、Bean to Bar チョコレートメーカーの場合は、カカオ豆からチョコレートを作っていることもあり商流がとてもシンプルです。ダンデライオン・チョコレートのようにダイレクト・トレード(必ず産地を訪れ、自らの目で生産地や生産者、生活環境、商流などを把握した上で直接価格を交渉し購入すること)でカカオ豆を入手しているメーカーも増えています。

参考:フェアトレードとダイレクトトレードの違いとは?​​

 

しかし、それだけでBean to Bar チョコレートは安心で、その他大手企業のチョコレートは信用できない、と位置づけるのは間違っているでしょう。大手チョコレート企業の多くはカカオ生産国に対して技術的・金銭的支援を行っていること、また児童労働や労働環境の改善に取り組んでいると会社として表明していることも、事実として知っておくべきだと思います。

今後の課題と私たちがどう向き合うか

現在カカオ農園で児童労働を強いられている子どもたちは156万人とも言われ、その多くはコートジボワールやガーナで起きていると言われています。

多くの企業が児童労働撤廃のために様々なプロジェクトを立ち上げ支援していく中でも減ることのないこの問題。
先日の裁判では責任を問われませんでしたが、より大きな働きかけをしてカカオ市場全体の改革を行うのも、大企業だからこそ取り組めることかもしれません。

この問題において、誰かを責めたり責任を転嫁することはできません。チョコレートの製造国とカカオ生産国、お互いがどう現実と向き合い、両者で解決策を模索するほかありません。
私たちチョコレートメーカーは正しい情報を開示すること。
そして、消費者の立場に立ったときには限られた視点ではなく、様々な現状を知り、自らの見解を持つこと。
正解はないので、違う見解を持つ人がいても責めないこと。

私たち一人一人がひとつひとつの食に対して選択と判断ができるようになることが、大事だと思います。

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