私たちダンデライオン・チョコレートはクラフトチョコレートメーカーとして日々チョコレートを作りBean to Bar チョコレートの魅力を発信していますが、私たちの周りには同じように、ものづくりを通してお客さまにおいしさと共にワクワクする体験を発信している素敵なブランドがたくさんあります。
そんな同じビジョンを持つブランドと、お互いのこだわりや大事にしていることを深堀りする対談企画「◯◯と、チョコレートと」。商品の魅力やブランドについて考えていること、また今後どのように発展していきたいかなど、普段聞けない「うちに秘めた想い」をお伝えしたいと思います。
ご紹介するブランドや商品を身近に感じ、毎日の暮らしをちょっと豊かにするための参考やきっかけになると嬉しいです。
記念すべき第一回は、「煎餅と、チョコレートと」。おせんべいとチョコレート、あまじょっぱい組み合わせのストーリーをお楽しみください。
煎餅と、チョコレートと
松崎煎餅 8代目店主・松崎宗平さん(右)と、ダンデライオン・チョコレートの物江徹(左)
チョコレートよりもはるか昔、日本に根付くお菓子のひとつが「おせんべい」。松崎商店は、文化元年(1804年)から続く老舗煎餅屋です。
2021年7月にはこれまで本店があった銀座5丁目から4丁目に移転し、屋号も「銀座 松崎煎餅」から「MATSUZAKI SHOTEN」へと変更。煎餅を軸とした新たな「商店」としての展開に挑戦しています。
今回、兼ねてから音楽を通してプライベートでも親交のある8代目店主・松崎宗平さんとダンデライオン・チョコレートの物江徹が、お互いの商品やこれからの挑戦について話しました。
銀座から東銀座に
藤色ののれんの横には松崎煎餅の看板商品「三味胴」を模したネオンサインが。歴史と現代の融合を感じます
物江:「銀座 松崎煎餅」から「MATSUZAKI SHOTEN」に変わって、雰囲気もガラッと変わったね。銀座から東銀座に移って、どんな変化があった?
松崎:煎餅だけじゃなく、それを含めた身近なものを発信しやすくなったかな。銀座はどちらかというとフォーマルなイメージだと思うんだけど、もうそろそろそこから脱さないといけない時代だと感じていて。うちはそのちょっと先の立ち位置にいたいというか、もう少し気を抜いて楽しめるようになりたいなって想いもあって、より下町で敷居が高くない店も多い東銀座に移転を決意した。そもそも煎餅って、肩肘張って食べるものじゃないしね。
物江:確かに、立地はブランドのイメージを発信する上でも大事だよね。ダンデライオン・チョコレートは本店があるサンフランシスコの立地と蔵前の雰囲気が似ていたからっていうのも理由のひとつで。古くからある倉庫や問屋さんと、新しいクリエーターが少しずつ増えているところとか。
松崎:そういう意味では2016年にオープンした松陰神社前店※1が似ているかも。あのエリアがいいなって思った先駆者達がそれぞれお店を出し始めて、それに僕たちも引き寄せられて。街を訪れる人が増えると今度は企業が入ってきて街が栄えていく、みたいな。東銀座もそうなってほしいと思ってる。
※1「地域密着・原点回帰」をテーマにしたコンセプトストア。カフェ併設型の店舗で店舗限定の煎餅も販売
煎餅の固定観念を新しいかたちに
さまざまなアーティストとのコラボレーションや季節に合わせた限定のイラストを施した「三味胴」。ひとつひとつ手作業で描かれています
物江:長く愛されている伝統あるブランドでありながら、なぜ今敢えて新しく変わろうと思った?
松崎:松崎煎餅はもともと瓦せんべいという小麦が主原料のメーカーだった。でも僕が継ぐ頃には草加煎餅という米菓子がメインになっていて、瓦せんべいの方は自社構成比が5%くらいまで落ちていたんだよね。だから「せっかくならもともとやっていたものを大事にしたほうがいいんじゃない?」という想いがあった。
そしてこの業界の悩ましいところは、小麦や米の使用量で大体の商品価格が決まっちゃっているということ。業界的にもマーケット的にも動く(売れる)値段の範囲があって、なかなか商品価値を上げても値段を上げることができない。
物江:日本に古くから根付いているからこそ、だね。確かに、その点チョコレートやコーヒー、ケーキは海外から来たもので、ある程度価格が上がっても受け入れやすい気がする。実際僕たちのチョコレートバー(板チョコレート)もオープンした2016年は「一枚1,200円の板チョコなんて高い」という声が多かったけど、この5年でそういった声を聞くことが減ったかな。
松崎:だから見せ方やアプローチを変えて、本来の瓦せんべいの価値を高めてそれを根付かせるかが、今の課題だと思って。ちょっと見た目の違う「松崎ろうる」や天然着色料でイラストを描いた「三味胴」で興味を持ってもらったり、他の同業者とも意見交換しつつ、試行錯誤しながら新しいかたちを模索しているところかな。
物江:なるほど、その点は僕たちがやっていることと似ているかも。一番の看板商品はチョコレートバーだけど、日本人はなかなかチョコレートバーをそのまま食べる習慣がまだない。だから僕たちのお店も工場併設型のカフェになっていて、目の前で作ったチョコレートを使ったドリンクを飲めたり、ガトーショコラのような誰もが知っているお菓子でまずは関心を持ってもらう。そこでおいしいって思っていただけたら、「じゃあ次はチョコレートバーも試してみよう」ってもう一歩踏み込める。
松崎:そうだね、この新しい店舗ではお煎餅に合うコーヒーが飲めたり、「ぎんざ空也 空いろ」のあんこを使った松崎ろうるがあったり、新しい瓦せんべいの楽しみ方が提供できていると思う。コーヒーに煎餅って意外だけど、実は合うんだっていうのもこのカフェスペースで体験できるし。
物江:ダンデライオン・チョコレートのカカオニブとチョコレートを使った「黒格子」も新しいかたちのひとつだったね。すごくこだわって作ってくれて、確か最初に話があってから発売するまで1年くらいかかった気がする。
松崎:そう、ものすごくいろんなパターンで試したね。僕はカカオニブだけが入ったものがおいしいなと思っていたんだけど、周りのスタッフからは生地にもチョコレートを混ぜたほうがおいしいという意見もあって、ちょっと見た目が茶色い「黒格子」になった。いろんなカカオの産地や配合割合で何度も試作して、時間はかかったけど長く続けていきたい定番商品になったよね。ちなみにこれから黒格子をミルクアイスに混ぜ込んだ「黒格子アイス」も発売予定なんだ。
「大江戸松崎 黒格子」は、ダンデライオン・チョコレートのチョコレートとカカオニブを使用した瓦せんべいです
伝統があるから変われること
「黒格子」の製造風景。職人さんが一枚一枚丁寧に焼いています
物江:実際に瓦せんべいを作っている様子を見学させてもらったけど、本当にひとつひとつ職人さんが手作りしているんだね。チョコレートも製造工程を見たお客さまから「こんなに時間をかけて丁寧に作られているなら大事に食べないと」と感想をいただくけど、この瓦せんべいの製造現場も実際にお客さまに生で見てほしいって思っちゃう。
松崎:瓦せんべいは原材料が小麦粉や砂糖、卵ととてもシンプル。だからその日の気温や湿度、生地の状態を見て毎日職人さんがその日の火加減を決めている。機械も50年ものだから、こういった今も残る機械や製法を大事にしながら、どう新しく進化できるか、日々試行錯誤しているよ。
物江:ダンデライオン・チョコレートでは新商品を開発するとき商品開発担当がいたりするんだけど、松崎商店ではどうやって開発しているの?
松崎:例えば「松崎ろうる」は僕がイメージしたものを瓦せんべいの職人に伝えて、「だったらこんな風にできそう」と厚みや製法を変えて何パターンか作ってもらって進めて行った。あと三味胴は季節ごとにイラストが得意なスタッフに考えてもらったり。結構みんなで話し合って進めることが多いかな。
物江:長く続くブランドだと、何かが変わったり新しいことに挑戦したりすることに消極的なイメージもあるけど、みんなで取り組めるっていい方向性だよね。
松崎:そうだね、そのあたりは先代から「とりあえずやってみな」と挑戦しやすい環境ではあるのかも。もちろん失敗もあるけど、まずは動いてみないと分からないし、自分たちが発信したいことはどんどんかたちにしていきたいよね。
行ったら楽しい街にする
物江:屋号も変わって、これからどんな展開をして行きたい?
松崎:今は松崎煎餅が主体のお店だけど、これから他のブランドや食品以外のものも販売して、ポップアップ的なことができたら、という構想がある。
この街にもおもしろいお店が徐々に増えてきてるし、僕たちも「商店」として人が集まる場所にできたらって考えてる。近隣のお店と一緒に盛り上げてワクワクする街にして、世代を問わず、「今日東銀座行こう」ってなるといいなと思うよ。
カフェスペースのテーブルは昭和39年に設立した松崎ビルで使用していたものをリメイク。街歩きの途中に足を休めるのにもおすすめです
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瓦せんべいを新しいかたちで表現すると共に、東銀座の街を盛り上げること。MATSUZAKI SHOTENでは手土産を買う若い世代や、カフェスペースでコーヒーと瓦せんべいを楽しみながら談笑している仲睦まじいご夫婦を見かけるなど、これまでのお店ではない新しい風景も生まれていました。
守り続けることと、今の時代に合わせて伝統が進化することは一緒に育まれるものなのかもしれません。
チョコレートもおせんべいと同じように長く愛されるためにどう変わっていくのか。どちらも身近な商品だからこそ、毎日の暮らしにそっと寄り添えるように、ちょっと暮らしが豊かになるように、ものづくりの進化は続くのだと思います。