こんにちは、ダンデライオン・チョコレートの伴野です。私たちは新しい産地や収穫年のカカオ豆が届くと、毎回チョコレートの開発を行っています。チョコレートの最終的な味わいを決める工程でもっとも重要なのが、「カカオ豆のロースト(焙煎)」です。同じカカオ豆でも、ローストの温度や時間が変われば、チョコレートのフレーバーも変わります。
このチョコレートの開発手順はチョコレートメーカーによってそれぞれ異なりますが、ダンデライオン・チョコレートでの開発ステップはちょっとユニーク。今回は、私たちのチョコレートバーの開発手順とチョコレートの評価方法をご紹介します。
「遺伝的プログラミング」を応用した開発ステップ
ダンデライオン・チョコレートの創業者トッドは、スタンフォード大学の「遺伝的プログラミング」の授業で学んだ「どんな問題も自分が望む結果を設定し、もっとも基本的なかたちに分解して考える」という方法を応用して、この手法を考えました。
細かい理論は省きますが、ローストする際には、ロースターの庫内温度、焙煎時間、風量、火力、焙煎量、豆の到達温度、製造場所の温度や湿度・・・とさまざまな要素があります。このなかでもっともシンプルなかたちで開発を進めるためには、「ひとつの要素のみを異なる条件でテストし、ほかの要素は統一する」ことが大事です。たとえば、さまざまな焙煎時間を設定し、それ以外の要素はすべて同じ条件にする。そうすることで、どのテストサンプルのどこが良かったのか判断しやすく、次のステップに移行しやすくなります。
ダンデライオン・チョコレートの開発手順
実際にダンデライオン・チョコレートで行っている開発のステップは、大きく4つに分かれています。
(チョコレートの製造工程はこちら)
①スタンダードテスト
カカオ豆のポテンシャル(基礎的な味わい)を測るために、Behmorというミニロースターを使用し、少量(約1kg)を低温でローストします。開発担当者はカカオニブやチョコレートにした状態をテイスティングし、最終的に目指すチョコレートの味わいを探ります。
②2.5kgテスト
まずは、約4-5種類の幅広い焙煎温度でテストします。通常使用しているロースターの容量は10kgですが、当たりをつけるためなので、その後のステップで再現性のある最小焙煎量、2.5kgでローストします。このとき、テストする要素を焙煎温度にし、それ以外の要素は固定することで、お互いのテストサンプルを比較できるようにします。
通常使用しているメランジャーより小さいミニメランジャーを使用し、1kg分のチョコレートをつくり、テイスティングします。
③10kgテスト(2-3回)
②で人気のあった焙煎温度帯をベースに、通常生産と同じ10kgでローストします。3-4種類のテストサンプルをつくり、テイスティングを繰り返し、条件を変えながら徐々に方向性を狭めていきます。
④シュガーテスト(1-2回)
いよいよ、通常の生産と同じ30kg容量のメランジャーで、砂糖を入れるタイミングを決める「シュガーテスト」、ここまで来れば最終段階です。メランジャーにカカオニブを入れて擦り混ぜると、カカオニブに含まれる酸味やえぐみが揮発します。砂糖には香りを吸着するはたらきがあるため、残したい酸味の程度やえぐみのバランスを見て、砂糖を投入します。カカオニブをすり混ぜ始めてから何時間後に砂糖を投入するか、30分単位で味見をしながら吟味します。
⑤本生産スタート
開発担当者が納得する味わいが完成したら、本生産スタート。約3週間の作業です。意外と短いと思うかたもいると思いますが、あまり長くだらだらと続けても、その前の味わいを忘れてしまったり、集中力が欠けたりしてしまうもの。開発を始めるときにテストの日程を組み、スケジュール通りに完成するようにしています。
「製造工程のすべては私たちのファクトリーで」
ダンデライオン・チョコレートのチョコレートバー
「製造工程のすべては私たちのファクトリーで」
ダンデライオン・チョコレートのチョコレートバー
チョコレートの評価方法
味の評価は、極めて主観的なものです。人それぞれ味覚が異なるので、「これが最高においしい」と定義するのは難しいと思います。それでも、私たちはなるべく客観性が生まれるように、このような方法で評価しています。
・評価するのは「ダンデライオン・チョコレートの全スタッフ」
これはより幅広い意見を取り入れるために、実際に製造を担当するチョコレートプロダクションスタッフだけではなく、カフェスタッフ、ペストリースタッフ、バックオフィスのスタッフまで交えることで、より多様な味覚を持った人が集まり、偏った意見だけにならないようにしています。
・ブラインド・テイスティング
テストサンプルはブラインド・テイスティングにして、各サンプルのフレーバーの感想と、-2から+2までのスコアをつけます。-2は、これまで食べたチョコレートのなかで一番まずい、+2はこれまで食べたチョコレートのなかで一番おいしい、0は可もなく不可もなく普通、で判定します。
これは10点満点で評価しないところがポイントで、理由は10点満点の場合どこまでが「おいしい」と思う範囲か、人それぞれになってしまうからです。-2から+2であれば、単純に「0以上の人は満足している」と見ることができます。
そして、テストサンプルはすべて異なる点数で評価するようにお願いしています。同じ点数では、優劣がつけられなくなってしまうからです。
・データ分析
開発担当者は集まったデータを全てスプレッドシートに入力し、
・1以上をつけた人数(ポジティブな評価)
・0以上の平均値(ポジティブなサンプルの平均値)
・0未満をつけた人数(ネガティブな評価)
・全体の平均値
・中央値
・標準偏差(好みのばらつき)
を算出します。
開発担当者はこの結果から、どのテストサンプルが好まれているか傾向を把握し、味わいの方向性や次のテスト条件を考えます。
たとえば、1以上をつけた人数が多くても、全体の平均値は低かったり、標準偏差が大きかったりする場合は「人によって好みが分かれる味わい」ということになります。
反対に、1以上をつけた人数は少ないけれど、全体の平均値は他のテストサンプルと比較すると高く、標準偏差が小さい場合は「全体的に全員がある程度好きな味わい」ということになります。
このような分析結果から、開発担当者は自身の好きな味わいとスタッフの意見を組み合わせて、どのような味わいにしていくかを考えます。
私が開発した「ワンプゥ, ホンジュラス 70%」の場合、「多くのお客さまがふとまた食べたくなる、親しみやすい味わい」を目指していたので、後者の「全体の平均値は1あたりでも良いから、標準偏差がなるべく小さくなるように(好みのばらつきがないように)」という部分に注目しながら開発を進めました。
個人的には低温でのローストが好きでしたが、それでは個性的な味わいになってしまう場合もあるので、スタッフの中で人気のあったテストサンプルの条件に合わせながら、なるべく低温に寄せる、という流れで完成しました。
ダンデライオン・チョコレートのチョコレートバーには開発を担当したスタッフの名前が左下に入りますが、実は多くのスタッフの力を合わせて出来上がった、そのときにしか作れない唯一無二の味わいです。開発担当者に一任して好きな味わいにする、というのもひとつのやり方ですが、たくさんの人の意見をもらうことで、より多くのお客さまに満足していただけるチョコレートになり、それが開発担当者自身の成長にもつながります。
この手法のベースは、「ダンデライオンのチョコレート - カカオ豆からレシピまで ビーントゥバーの本」の本の中「焙煎方法Part 1」(56ページ〜)にも記載があるので、興味のあるかたはぜひご一読ください。