新緑溢れる5月下旬の日曜日。鎌倉の由緒ある禅寺・浄智寺にて、禅とチョコレートを組み合わせたユニークなセッションが実現しました。
(「Zen2.0」Meet Up! @ KAMAKURA with DANDELION CHOCOLATE Vol.01 in 浄智寺)
一見突飛なこの掛け合わせの切り口は、「座禅による味覚の変化」。朝比奈恵温住職による40分間の座禅の前と後で、カカオ豆の産地の異なる3種類のチョコレートをテイスティングし、感覚や意識の変化を体感してみるという、ちょっとした実験の場となりました。
こんなコラボレーションが生まれたのは、鎌倉を「マインドフル・シティ」として盛り上げるべく活動しているZen2.0との出会いから。
「今、この瞬間に自分が体験していることに意識を向ける」ことを提唱するマインドフルネスは、禅の思想に端緒をなしながら、その実質的な効果が着目され、宗教色の薄れた形でアメリカのビジネス界を中心に普及し、最近は日本でも一般的な用語として目にすることが多くなりました。Zen2.0はこの逆輸入されたマインドフルネスを、禅文化の根付く鎌倉から再び世界へ伝えていこうと、9月に同地で2日間にわたる越境的なカンファレンスを準備中。禅とチョコレートすらつなげてしまう、鎌倉らしい風通しの良さを感じるグループです。
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当日はお天気にも恵まれ、開け放された窓から入る光と風を感じる中、セッションが始まりました。イントロダクションや座禅前のプレ・テイスティングを終えて、いよいよ座禅開始。朝比奈恵温住職の指導の下、姿勢を伸ばし、意識を集め、思考を追わず、1つ1つの呼吸を丁寧に重ねていくうちに、身体と心が一体化されていくだけでなく、周囲や環境とも自分が溶け合っていくような、不思議な感覚が訪れました。
思考も煩悩もすっかり停止し、何とも言えない心地好い休息を味わった後は、再び同じ3種類のチョコレートのメイン・テイスティング。説明を加えずにそのまま召し上がっていただいたプレ・テイスティングと異なり、すぐに噛み砕いて飲み込まずに、舌の上でゆっくりと溶かすようにテイスティングしていただきました。チョコレートの香りを鼻孔へと送りながら、味わいや風味の繊細な変化に意識を向けると、様々なフレーバーを感じ取ることができます。このように、時間をかけて1粒1粒のチョコレートにじっくり向き合いました。
セッションの締めくくりは、体験のシェアリング。座禅の前後でどのように味わいや風味の感じ方が変化したか、カカオ豆の産地や特徴、製造方法についての話も交えながら、全員の感想を聞くことができました。
今回のセッション用に選んだのは、ダーク・チョコレートらしいマンチャーノ,ベネズエラ(サンフランシスコ製)、親しみやすい味わいのサンフランシスコ・デ・マコリス, ドミニカ共和国(蔵前製)、ジューシーな酸味が特徴のアンバンジャ,マダガスカル(サンフランシスコ製)。比べることでカカオ豆の個性が際立つように、異なる方向性のフレーバーを持つ3種類にしてみたところ、フレーバーや舌触りのコメントも、味わいの差が前後で強く感じられた種類も人それぞれ。同じ体験を通して見える人と自分との感覚の違いを、座禅で生まれた穏やかな一体感のお陰なのか、自由にシェアすることができました。
慣れ親しんできたチョコレート、これまで何度も行ってきたテイスティングですが、私自身も今回初めて感じたフレーバーや、いつもよりも強くオリジンの個性を味わえた感覚があり、座禅や環境の効果に驚くとともに、カカオの奥深さを改めて実感しました。
忙しい日々の中で、目の前にある対象だけに意識を集中させることはなかなか難しいかもしれません。座禅とテイスティングをマインドフルネスの文脈でつなげてみたことで、1粒のチョコレートの裏側にあるストーリーや思いの本質的な部分を、逆にシンプルに届けることができたような気がしています。
朝比奈恵温住職、Zen2.0の皆さま、ご参加者の皆さま、貴重な体験をありがとうございました。
Text by May
Photo by Matt