ソフトクリーム奮闘記(後編)

5月25日(土)に掲載した「ソフトクリーム奮闘記(前編)」に続き、Bean to Bar Lounge 表参道 GYRE(以下 Bean to Bar Lounge)でストアマネージャーを務めた小笹真さん(現在、鎌倉店勤務)の「ソフトクリーム奮闘記(後編)」をお届けしたいと思います。



Photo by ERICWOLFINGER



■ソフトクリームに関する悲しみと呪いとその後の希望について
試食会から数日後、レセプション前日、Bean to Bar Loungeではスタッフがようやく全員顔を合わせ店舗オペレーションの練習を行っている日です。
僕は、ソフトクリームマシンのメンテナンス講習をカルピジャーニ社の輸入代理店で働くKさんから受けていました。自動制御で加熱殺菌などを行ってくれるこのマシンは、最大2週間に一度のメンテナンスで良いのですが、一度に3時間かかります。営業後(営業時間11:00~20:00)に3時間・・・。
慣れた人が続けて行って3時間の作業、初めての人に教えながらだと5時間はゆうに越えます。
オペレーションの練習は信頼できる上司に任せ、僕はひたすら非常に微細なパーツの洗浄やその複雑な手順を覚えることに没頭していました。大変ではありましたが、2週に一度のこの作業があの感動を生むのだと思えばそれも苦ではありませんでした。あの日を迎えるまでは。





2月2日(金)
昨日のグランドオープンを興奮を持って全員で迎えたその翌日。マシンのタッチパネルには「本日分解洗浄」の表示。なぜ。数日前にしたばかりなのに。すぐさまKさんに電話したところ、想定される理由を教えていただいた上で対処法としてはまずは分解洗浄を行うしかないとのこと。2日目にして一旦販売を停止してのメンテナンス作業、4時間半。
しかし、短期間に続けて作業ができたことで一通りの流れを覚えることができ、これはこれで良かったなと思いながら販売を再開し、またお客さまにこのソフトクリームの魅力を伝えていました。

2月3日(土)
再びの「本日分解洗浄」の表示。「昨日したじゃないか、お前は記憶が24時間持たないタイプのあれなのか」と独りごちながらKさんに電話。また考えられる原因を特定していただきつつ、一旦販売を停止してのメンテナンス作業、4時間。



Bean to Bar Lounge スタッフ 栗崎さん



2月4日(月)
なにごとも無し。

2月5日(火)
オープン以来初のオフ。準備からの疲れも溜まっていたところなので、アラームをかけずに遅めの朝を迎えて携帯を手に取ったところ、『画像を送信しました』という店舗スタッフからのLINE通知が。半ば胸騒ぎ、半ば諦めの気持ちでLINEの画像を開いたところ『本日分解洗浄』の写真。「分かっていたよ、もう、なんとなく分かっていたよ。」
出勤、一旦販売を停止してのメンテナンス作業、3時間。

この作業はバックルームでひたすら1人でやるので孤独が襲ってきます。
ソフトクリームに休日を奪われ、孤独に襲われた僕は、もはや正気ではいられずソフトクリームをその概念ごとこの世から消し去ってやろうと本気で考え、生きながらにして半ば怨霊化していました。
バックルームに顔を出しては声をかけたり差し入れをしてくれたりする店舗のスタッフがいなければ、平将門や菅原道真に並びこの世とソフトクリームに仇なす怨霊になっていた可能性が高かったでしょう。








その後も週に2度ほどのペースで行われるメンテナンス。
原因は様々。
一つには、ダンデライオン・チョコレートのチョコレートのフレーバーをいかんなく味わってもらうために、チョコレート味の方の粘度が高めなこと。Kさんもここまでの粘度のものは扱うのが初めてらしく、それによるトラブルが多発。
あとは、マシンの精細さ。冒頭の方で述べたオーバーランの設定のように、このマシンは美味しいソフトクリームを食べるという部分に特化しているので、非常に細かい設定が可能です。裏を返すと不慣れな内はちょっとした設定やパーツのセッティングをこちらが間違えてしまうことでエラー表示になるのです。








心の中で、カルピジャーニ社のマシン開発責任者トンマーゾ(52歳 ボローニャ出身)に、「こんなことでマシンが止まるなんてまるでトラップじゃないか!」と怒りのたけをぶちまけると、トンマーゾは、「ハハハ、何を言ってるんだ、こんなに美味しくて素晴らしいソフトクリームを作れるんだ、それしきのことはどうってことないだろう」とのたまうのです。
(注:トンマーゾは冷静さを失った私の心が生み出した架空の人物です)。

「ふざけたことを言うんじゃない、扱うこっちの身にもなってみろ」とトンマーゾに対して憤りを覚えそうになったのですが、メンテナンスにも慣れ、イレギュラーなマシンの停止もどんどん減り、冷静になってソフトクリームを一口食べてみると、やはりどうしようもなく美味しいのです。
オープンして3週間が経つ頃には、一時期は怨霊となりかけていた僕も、確かにこれだけ美味しいソフトクリームを提供できるのであればトンマーゾの言う通りだなと思うようになっていました。

恋愛もソフトクリームも惚れた方が負けなのです。





楽しみに来ていただいたにも関わらず、メンテナンス中でお届けできなかったお客さまには心からお詫びを申し上げます。
メンテナンスに至ったいきさつはこのような感じでした。
現在はイレギュラーに止まることもほぼ無く、メンテナンスをできるスタッフも2人増えております。


雨が多く寒暖差が激しい今日この頃ですが、梅雨がおわると夏がやってきます。暑い日にはBean to Bar Lounge限定の冷たいソフトクリームを片手にキャットストリートや表参道を散策してみるのはいかがでしょうか?
また、メンテナンスの苦労話を聞いていただければ、スタッフは希望を持った苦労話を嬉々として話し出すので是非お声かけください。



Text by Mako ”

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