Craft Chocolate Festival(3)Bean to Barとカカオビジネス

 

1月28日(土)・29日(日)と2日間にわたって開催した“Craft Chocolate Festival presented by Bean to Bar Summit(CCF)”。最終回は海外のBean to Bar関係者によるパネルディスカッション、「Bean to Barとカカオビジネス」の模様をお伝えします。

 

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そもそもCCFの趣旨は、Bean to Barを単なる一過性のムーブメントではなく、カルチャーとして日本に根付かせること。そのためにも、海外で生まれたBean to Barの本質の部分をもっと理解したい・理解してほしいという思いから、「Bean to Barとカカオビジネス」というテーマを選びました。

Bean to Bar業界には、既存の価値観や常識に縛られず、新しいビジネスモデルを生み出している面白いプレーヤーがたくさんいます。そんなカカオ生産者、ブローカー、チョコレートメーカーを集めてこの業界について熱く語ってもらえたら、日本でのBean to Barが次のステップに進むための糸口が見えてくるかもしれないと。

 

そんな思いに快く応じ、世界各国から駆けつけてくれたのが今回のメンバー。前回に続きモデレーターを務めるのは、SFのダンデライオン・チョコレートでソーシング(カカオ豆の調達)を一手に引き受けるグレッグ。パネリストには、ブローカー側からMeridian Cacao Co.(メリディアン・カカオ/US)のジーノとUncommon Cacao(アンコモン・カカオ/US)のマヤ、カカオ生産者側からKokoa Kamili(ココア・カミリ/タンザニア)のシムランとZorzal Cacal(ソルサル・カカオ/ドミニカ共和国)のチャールズを迎えました。

実は全員が日頃から仕事を共にするパートナー同士。お互いのビジネスや役割を知り尽くしている彼らだからこそ、根幹に触れる刺激的なセッションが実現しました。

 

パネルディスカッション「Bean to Barとカカオビジネス」の全容はこちらからご覧いただけます→パネルディスカッション「Bean to Barとカカオビジネス」


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新しいカカオビジネス

活発なディスカッションから浮き彫りになったように、パネリストの彼らに共通するのは、新しいカカオビジネスのモデルを可能にするフェアでオープンなマインドです。

MeridianとUncommonは、透明性の高いサプライチェーンを構築することで、小規模の農園が持続的に高品質のカカオを生産し、自由市場にアクセスできるポジティブなサイクルをつくっています。品質の向上・維持を通じて取引価格自体を引き上げるだけでなく、Uncommonに至ってはファンドやローン制度を設立し、生産者に対する実質的な経済支援も行っています。長期的な視野で生産者と協働する、これまでにないビジネスモデルです。

Kokoa Kamiliは、タンザニアで行われてきた伝統的なカカオ栽培や取引を根本から覆し、同国初となるスペシャリティカカオの生産に成功しました。彼らは3,500戸の小規模農家からカカオを購入し、自ら考案した適切な発酵方法で一元管理することで、地域全体のカカオの価格の引き上げにも貢献しています。

Zorzal Cacalは、ドミニカ共和国初の民間鳥類保護区でカカオを栽培し、自然保護とビジネスの両立を実現させています。絶滅の危機に瀕している種を保護し、マカダミアナッツやバナナといったその他の農作物も育つ生物多様性のある土地を守りながら、付加価値のあるカカオを育成し、地域の雇用も創出するという、驚くほど画期的でサステナブルなプロジェクトです。

いずれも2010年代に設立された企業/団体ですが、プロセスを楽しみながら、社会、経済、自然環境にポジティブな変化を生み出していく彼らのストーリーは、チョコレートの世界で何か新しいことが胎動している機運を感じさせ、純粋にわくわくしました。また、必要な情報や自由なアイディアを共有し、カカオビジネス全体を活性化させている、コミュニティのエネルギーを強く感じました。

 

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Bean to Barの意味

Bean to Barのチョコレートをつくることは、文字通りシムランやチャールズのようなカカオ豆の生産者からはじまっています。そして、私たちの元に良質な豆が届くには、カカオを「大量生産される農作物」として扱うのではなく、人と土地に敬意を払い、品質と価格に力を入れるジーノやマヤのようなブローカーたちの地道な努力が欠かせません。私たちチョコレートメーカーは、そのようにして大切に育まれたカカオ豆の個性を活かし、美味しいチョコレートをつくることで、カカオの価値を上げ、サステナブルな連鎖を生み出すことができると信じています。豆(Bean)からバー(Bar)までをまさにひとくくりで考え、その間にある1つ1つの関係性に思いを馳せると、日本では新潮流やトレンドとして紹介されることの多い”Bean to Bar”がまた違って見えてくるかもしれません。

 

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大量生産・大量消費への異議としての素材やクラフトフードへの関心の高まりは、今や世界的な傾向ですが、Bean to Barという興味深いカルチャーがアメリカで生まれ育ったのは、彼らのコミュニティやビジネスモデルの作り方にヒントがあるような気がしました。彼らのように、情報やアイディアをオープンに交換し、多様な価値観やスタイルを受け入れながら、業界全体を底上げしていくことで、日本のBean to Barやクラフトチョコレートももっともっと盛り上がっていくのではないかと思います。

 

ダンデライオン・チョコレートが東京・蔵前にファクトリー&カフェをオープンしてから1年が経ちました。その間に、世界で日本で思いを共にする方たちと一緒にこのようなイベントを形にできたことを心から感謝しています。

企画から実行まで手づくりの小さなイベントでしたが、バレンタイン前という目の回るような忙しい時期の合間を縫ってお集まりいただいたたくさんの方々の熱量に満ちた2日間でした。今後もこうした機会を定期的につくり、Bean to Barやクラフトチョコレートの横のつながりを強くしていければと思います。どうもありがとうございました。

 

 

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Craft Chocolate Festival (1)→基調講演 クロエ・ドゥートレ・ルーセル

Craft Chocolate Festival (2)→ 日本のクラフトチョコレートマーケット

 


Text by May

Photo by Yuki Ohara

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